【主張】主婦の年金
これが民主党政権の「政治主導」なのか。
年金の切り替えを忘れた専業主婦の救済問題で細川律夫厚生労働相は自らは給与の自主返納にとどめる一方で、担当課長の更迭をはじめとして事務次官ら厚労省幹部を処分した。自らに甘い対応であり、これで幕引きとはいくまい。
政府の対応が迷走した責任は厚労行政をあずかる細川氏にある。とかげの尻尾切りのような官僚の処分は責任転嫁といえよう。民主党政権は大臣、副大臣、政務官の政務三役で政策決定を行ってきた。問題が起きたときだけ官僚に責任を負わせるのでは、ご都合主義の批判を免れまい。
担当課長を更迭したのは、救済策を定めた課長通知を出す際に細川氏への報告を怠ったことが理由だった。ところが、実際には岡本充功政務官が通知が出される前に報告を受けていた。政務三役の間で連絡がうまくいっていなかっただけのことではないのか。
こんな「言いがかり」のような形で処分されたのでは、官僚は働く意欲を失うだろう。岡本氏も給与を自主返納するというが、あまりにバランスを欠く。岡本氏は国会答弁で「厚労相に報告すべきだった」と自らの責任を認めた。
ならば、なぜ官僚処分を決める時点で自らの非を明らかにしなかったのか。細川氏は正当性を欠いた官僚処分を即刻撤回し、岡本氏の責任を明らかにすべきだ。
課長通知による救済策を決めた長妻昭前厚労相の責任も大きい。正直者がバカを見るような政策を、課長通知という安易な方法で行う判断をなぜ下したのか。細川氏に救済策の内容を引き継がなかったことも問題だ。国会できちんと説明する必要がある。
長妻氏は厚労相時代に必要以上に官僚を遠ざけ、省内に自由な議論がしづらい雰囲気を醸し出していた。こうしたことも今回の問題の遠因になったのではないか。
誤った「政治主導」は行政の混乱につながる。菅直人政権は政治主導の意味を考え直し、官僚が情報を上げやすい行政運営を実現しなければならない。
政府は法改正による新たな救済策をまとめたが、細部で詰めなければならない点は多い。一刻も早く野党との間で具体案づくりに入る必要がある。そのためにも、細川氏は自身の責任の取り方を明確にすることが求められる。