熊本県知事も務めた細川護煕元首相が好んで使った「権不十年」という言葉がある。どんな政治家も10年権力を握り続ければ、必ず腐敗するという意味だが、エジプトのムバラク前大統領も騒乱続くリビアのカダフィ大佐もその法則に勝てなかったようだ。
▼なぜ、カダフィ氏は、クーデターから40年以上たっても「大佐」のままなのか。実は、カダフィ氏は首相になったこともあるが、「人民による直接統治」を掲げて政府や議会を廃止し、自らも役職を離れた。大佐は通称にすぎず、肩書のない独裁者はデモに参加した自国民を無差別に銃撃した。
▼カダフィ氏は傘をさしたままテレビのインタビューに答え、「若者と話したかったが、雨が降り出してしまった」と虚勢を張った。国外逃亡説を打ち消し、雨天の首都にとどまっていることを誇示して見せたようだが、どこかうらぶれてみえた。
▼同じころ、ニュージーランドは強震に見舞われ、語学研修に訪れていた富山県の専門学校生らも巻き込まれた。ご家族の心労はいかばかりか。一刻も早い救出を祈るばかりだが、文字通り世界は揺れている。
▼その点、この国は楽園である。高い賃料を払って白黒の珍獣が動物園にやってきただけでメディアが騒ぎ、もてはやす。古希近い政治家が「なぜ私だけがこのような処分を受けるのか」とごねても誰も不思議に思わない。一昔前なら起訴された政治家は議員辞職するか、離党したものだが。
▼30年も40年も独裁が続き、流血によってしか政権交代が実現しない国と比べ、1年も持たずに首相がころころ代わっても平和で豊かなこの国に生まれた幸せをかみしめたい。たとえ、それが愚者の楽園だったとしても。