【一筆多論】
「誰がメドベージェフを不法入国させたのか」-。こんなタイトルの著書が産経新聞出版から出た。メドベージェフとはむろんロシア大統領のことだ。メドベージェフを日本語に訳せば「クマ男」である。
そのクマさんは昨年11月、第二次大戦以降65年以上にわたりソ連とロシアが不法に占拠し続けている北方領土の国後島に、日本側が招待もしていないのに上陸し、不法入国した初のロシア元首となった。
にもかかわらず菅直人首相はクマさんを横浜に招待した。クマの不法ぶりと暴挙を非難するかと思いきや、北方領土は「日本固有の領土だ」とクギも刺さなかった。それどころか、クマに「解決できない論争より経済協力を」とツイッターでつぶやかれる始末だ。菅政権はその無能ぶりを世界にさらけ出した。
日本の指導者が最も重要な国益である領土と主権について明確に語らない日本は、このままでは大変なことになる-。そんな危機感から本書は生まれた。
クマ男は、なぜこの時期に暴挙に出たのか。その背後にいるのは誰か。その人物の狙いとは…。これらの問いに、産経新聞モスクワ支局の佐藤貴生支局長と遠藤良介記者の両特派員が真っ正面から執筆し、前任の支局長たちが共著した「北方領土は泣いている」を大幅に加筆、修正して北方領土問題をわかりやすく解説した。
クマ男の国後島上陸で北方領土のロシア支配は強化された。一方、国家意識の欠如した政治家の台頭や経済の縮小、高齢化、人口の減少など、日本の領土返還闘争には逆風が吹く。日本外交の不作為に加え、国家主権の意識が希薄なマスコミや教育界など、改革すべき課題も山ほどある。だが、いま始めなければ、日本の主権は揺らぎ、いずれ世界から見向きもされなくなるだろう。
日教組の教研集会で「北方領土がどこの領土かわからない」と述べた教師もいたというから大変である。そういう学校には、招待していただければ、当方からお話に出かけていく。
ロシアも、韓国企業に北方領土の開発を任せると発表して日本に揺さぶりをかけている。だが、そうした企業とその関係団体をブラックリストに入れて日本での企業活動や社員の日本入国を認めない法案を成立させるなど、制裁措置を取ればいい。日本にはまだ多くのカードがある。問われているのは、日本人自身のやる気なのである。
日本人は苦境をバネに何度も再起し、世界を驚かせてきた。択捉、国後、歯舞、色丹の北方四島はロシアに強奪された日本の領土なのだ。時間がかかろうともあきらめてはいけない。それが法と正義を希求する日本の国家としての品格である。
きょう7日は、北方領土返還運動の推進を図るために制定された「北方領土の日」である。ロシアの不法と闘うためのヒントが詰まった本書を、ぜひとも手にとり、対抗していこうではないか。
横暴な灰色クマさん、勝負はまだまだこれからです。(論説委員・内藤泰朗)
【BOOK】「誰がメドベージェフを不法入国させたのか」
(産経新聞モスクワ支局著/産経新聞出版、1365円)。発売中
北方領土奪還