【主張】回顧2010年
21世紀最初の10年が終わろうとしている。「10年ひと昔」という言葉があるが、10年前と比べて、日本の社会や政治、経済などに明るい兆しが見えてきたとはいえまい。むしろ、先行きの不透明感が増し、多くの国民はこの国が停滞期にさしかかっていると感じているのではないだろうか。
10年前の日本は、1980年代末から始まったバブル経済崩壊後の「失われた10年」と呼ばれる景気低迷を抜け出しつつあった。そして、それに続く戦後最長の好況「いざなみ景気」の時代に入ろうとしていた。だが、好景気も実際には実感の伴わないものに終わり、今に至るまで、どんよりとした重い空気が日本全体を覆い続けている。
◆期待裏切った民主党
今年の日本経済を振り返ると、やや明るさが出た時期もあったが、全般的には厳しい情勢が続いている。10~12月の3カ月間、政府による景気の基調判断は「足踏み状態となっている」との表現で据え置かれた。
何よりも問題なのは、国家財政が破綻寸前にあることだ。確かな財源も見込めないまま、国債の発行に頼るのは限界にきている。
雇用情勢も依然、深刻だ。とりわけ新卒者の就職内定率は戦後最低の水準にある。これでは、若者たちが夢を持てるはずがない。
昨年8月の衆院選で、国民は閉塞(へいそく)状況を打破してほしいと、民主党に国のかじ取りを託した。その意味で、今年は民主党政権の真価が問われる1年だった。
だが、期待は完全に裏切られたといえる。
外交面では、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をめぐって、菅直人政権は中国に対し毅然(きぜん)とした態度が取れず、国民の大きな失望を買った。北朝鮮による日本人拉致の問題は解決の糸口すらつかめず、ロシアのメドベージェフ大統領に北方領土訪問を許すなど、対北、対露政策も混迷を極めている。
最も大切な日米同盟関係も、普天間飛行場の移設問題で迷走した。鳩山由紀夫前首相が「最低でも県外」と県外移設にこだわった結果、暗礁に乗り上げている。
社会保障費の増大に伴う財源をめぐっては、消費税論議が必要不可欠だった。だが、菅首相は参院選を前に、積算根拠も示さず税率10%を掲げた。政府・与党内は混乱に陥り、議論がはばかられる雰囲気すら生んでいる。
政権の決断の遅さも批判された。とりわけ、民主党の小沢一郎元代表の資金管理団体をめぐる政治資金規正法違反事件では、小沢氏は衆院政治倫理審査会に出席の意向を示したが、どう決着させるかで党内はもたついている。
社会状況で特筆されるのは、「消えた高齢者」や「児童虐待」にみられる社会や家族の絆の崩壊だろう。日本人が築き上げてきた道徳や、よき慣習は失われ、寒々とした光景が広がっている。
大阪地検特捜部の元主任検事による証拠改竄(かいざん)にみられる検察庁のモラル低下も深刻だった。
◆負託に応えた裁判員
では、希望は全くないのだろうか。今年のうれしいニュースといえば、2人の日本人学者のノーベル化学賞受賞や小惑星探査機「はやぶさ」が長い宇宙の旅を終え、奇跡的に帰還したことだろう。
米パデュー大学特別教授、根岸英一さんも、北海道大学名誉教授の鈴木章さんも、若いころから海外に留学し、自分の学問を世界レベルで競ってきた。「2番ではなく1番」を目指したのである。
野球の本場、米大リーグで10年連続200安打を達成したイチロー選手や、サッカーW杯で16強入りを果たした岡田ジャパンの健闘もたたえられる。
だが、こうした一部の学者やスポーツ選手らだけに頼るのでは心もとない。大切なのは国民一人一人が、この国や社会を支えていく決意を持つことである。
そうした意味で、難しい判断を迫られた裁判員のがんばりに注目したい。今月、鹿児島地裁で判決が言い渡された老夫婦殺害事件は、被告が犯行を全面否認していたこともあって、審理は40日間もの長期に及んだ。
証拠書類をじっくり読み、被告や証人の話に耳を傾け、決断する。仕事などの個人的事情を抱えながら、国民の代表として託された役割を誠実に果たした人たちの姿に、この国の可能性や将来を感じるのである。