選抜クラスの鈴木です。
先日の授業内でボイスサンプルの収録を行いましたので、その模様をお届けいたします。
ボイスサンプルとは、声優個人の名刺となる音声サンプルのことです。役者の声質・役幅を指し示す宣伝材料で、自分の名前を名乗る音声だけで役が決まることもあれば、名乗りを聞いただけで選考から外れることもある程の重要な素材です。
(このお話を森川先生から聞いた時は、思わず背筋が伸びました!)
収録日に向けて、台詞とナレーションの原稿を自ら執筆制作し、授業で何度か演技指導や演出をつけて頂いてきました。
ボイスサンプル制作は、今の自分の実力が如実に出てしまう大変なものでした。
家で何度も繰り返し稽古すればするほど今の選択が正しいものなのか、聞いている人にとって聞き心地がよく心に残るものなのか、はたして自分のサンプルとなるベストな作品になっているのだろうか、森川先生に指し示して頂いた私の壁を乗り越えるものになっているのだろうかと、ひたすら収録当日まで考え続けておりました。
物創りの一番しんどいところでもあり、一番楽しいところでもあります。
これまでの授業で明確になった私の壁。それは【私というオリジナルを感じるお芝居になっていない】ということでした。何処かで聞いたこと事のあるような。テンプレートだなぁ、と感じるお芝居。
これでは勝ち取れない。
そう明確に提示して頂き、正直どこから手を付けるべきか途方に暮れたものでした。
今までは、役幅を出来るだけ持たせたいという意図から役の性格や台詞を構築してきましたが、やればやる程これが本当に私のオリジナルなのか?というところに立ち戻っていきました。
そうして何にも無い私に、役幅なんてそもそもあるのだろうか。なんて考えだしたりし、原稿が進まない日々が続きました。
そんな日々を打開する為、自分の中で一つの基準をつくることにしました。
それは、出来るだけ役や声を作らず自分の感覚で素直に伝えることが出来るかどうかというものでした。
そうすると、気がつくと皆似たような性格、似たような人間になっていくのです。
しまったこれでは同じ人間になってしまう。
(今回のサンプルは台詞を3役、ナレーションひとつ)
事前稽古で【全て同じ人間が演じているように聴こえる】というご指摘も頂いていたというのに!
しかしながらこれは、どちらも超えなければいけない私の壁。考える日々は続きます。
どうやってぶつかっていったらいいのか先の見えない隧道を歩いているようなものでした。
そんな中ふと思い出したのは、とある先輩声優のボイスサンプルを聴いた日のことでした。
その台詞を聞いた時、私は思わず感動で涙を流し、その素晴らしさにふるえていました。
ボイスサンプルひとつとっても、ひとの心を動かすことができるのだなと脱帽したのを良く覚えています。
それは確かに「作る」や「演じる」という域を超えた“そこに存在している誰か”だったのです。
素直に相手に伝える。
ただそれをひたすらに行っているのかもしれないと、しかし余りにシンプルなこと故に誤魔化しの効かないことなのだと実感しました。
こんな風に伝えることができたらば。当時の感動を思い出す度、自然と作品創りに向き合うことができました。
私の本質はどれなのか向き合い考えることを丁寧に行い、実際に聞いてくれたクラスの仲間の感想と意見を取り入れながら最終的な原稿を仕上げ、演技のプランを組み立てました。
考える作業は直前まで続きましたが、本番は必ずやってきます。
あとは、腹をくくるだけ。
収録当日は自分のことを信じ楽しんで挑もうと心に決め、スタジオに入りました。(実際に稽古場に隣接しているスタジオで収録させて頂きました!)
分厚い扉を開け入ると、スタジオの中は無音でいつもと違う刺激が沢山あります。
中央に立てられた一本のマイク。
スッと目の前に立つと左側にある大きな窓の向こう側には、森川先生が座っていらして緊張感が高まります。
目の前にあるランプが赤く点灯し消えたら収録スタートです。
緊張はありましたが、いつもより心なしか冷静でいられている私がいました。
考え続けた日々。仲間の意見を取り入れ作り上げた原稿。ディスカッションを経て、自分に無い視点や刺激をたくさん受けた作品創り。そんなこれまでの日々が私を冷静にさせてくれていたように思います。
そして、毎週の授業で私に今足りないものは何なのか、様々な形でお伝え頂いてきた森川先生に、今の私を包み隠さずぶつけていきたいという強い意思が私を奮い立たせていたのかもしれません。
収録はあっという間の出来事でしたが、刹那的なこの瞬間でも自分ではない人物になれるということは、とても楽しいことでした。
また実際にスタジオで収録する機会を頂けるのも貴重な経験だなと感じています。
これは小さな一歩ではありますが、私のお芝居が“本当にそこに存在している誰か”になれるよう、これからも「考える」を丁寧に続けていくこと「心を込めて素直に相手に伝える」ということを忘れずに頑張っていきたいと思います。
早く皆様に私のお芝居をお届けできるようこれからも精進して参ります。
選抜クラス 鈴木