消えた艦隊
1937年、イギリス、スピッドヘッド港で満艦飾の艦艇にイルミネーションがつけられた。実況を担当した海軍中佐トミー・ウッドルーフは、その模様をつたえる珍解説を放送し、聴取者に大きな「感銘」を与えた。
放送開始前に中佐殿は、祝賀パーティーに参加して、いささか、お酒を召し上がっていた。
そのため、中佐殿の解説はしどろもどろ、おまけに最高11秒間の沈黙によって再三中断される始末。
「目下、艦隊全体が光り輝いております。<光り輝く>というのは、色つきの豆電球で煌々とてらされているということであります。あの光景はとてもこの世のものとはおもえません。もはやあれは艦隊ではありません。あれはまさしく・・・おとぎの国であります。艦隊は一隻のこらず、おとぎの国に入っているのです。さて、私の話をこのまま聞いてくだされば・・・まもなく艦隊が世にも不思議なことを行う場面をお伝えできるでしょう」
ここで長い間をおく。
「申し訳ありませんでした。となりにいる人におしゃべりをやめてくれと頼んでいたんです。」と嬉々として中佐殿は説明した。
ちょうどその時、艦隊の電球が全部消え、ロケットが打ち上げられることになった。
ウッドルーフ中佐の感想は
「消えました。消えました。艦隊はもはやありません。要するに・・・消滅したのであります。かつてこの世で魔法の杖を振ったことのあるいかなる魔術師といえども、ただいまほど見事にやってのけることはできなかったでありましょう。艦隊がなくなったのであります。消えてしまったのであります」
そして次に
「私がこうして実況をお知らせするために立っております場所は、このくそいまいましい・・・(咳払い)この艦隊のど真ん中でありまして、そこでなにが起こったかと申しますと、艦隊は、なくなり、消えてしまい、なくなってしまったのであります」
ウッドルーフ中佐の声がかすんで消えていった。アナウンサーが、「これをもちましてスピッドヘッドからの実況放送を終わります」と告げ、ダンス・ミュージックが流れてきた。
あとでウッドルーフ艦長殿いわく、「あのときは感極まってしまってね」
マギー司郎よりおもしろいかもしれない魔術師
トミー・クーパーという英雄が、おのれの特異な才能を発見されたのはつぎの経緯によるものだった。
17歳のとき、船大工の修業をしていたクーパーは、イギリス、エセックス州ハイド市で催された造船会社の音楽界に出演した。ところが、マジックを演じるつもりで舞台に出たものの、幕が開いた途端に、セリフをすっかり忘れてしまった。
しばらくぼうぜんとつったって口をぱくぱくされていると、観客席は期待で静まり返った。「よし、このままやっちまおう」とクーパーは意を決した。
が、案ずるより産むがやすしどころか、やることなすことうまくいかない。
とうとう最後のとっておきの演目、牛乳瓶の手品をやる段になった。
「ここに牛乳のいっぱい入った瓶があります」とうっとりしている観客に口上を述べる。「この瓶の口のところに紙をかぶせてから瓶をさかさまにして紙をどけても、牛乳はこぼれません」
観客がかたずをのんで見守る中で、クーパー君は瓶を下向きにして紙をひっこめた。たちまち、ぱっと噴き出した牛乳で手品師の全身はぐしょぬれ。
これでもまだ十分ではないとでもいうように、われらが迷手品使いは舞台おじして、しきりに口を動かすだけで、声は一向に出てこない。おまけに全身に震えがきたとあっては万事休す、汗びっしょりで退場するのが精いっぱいだった。楽屋に入ったクーパー君の耳に全員総立ちの拍手と歓声がとびこんできた。彼の未来の栄光がかくして保証されたのである。
やりすぎ
1967年3月、ナイジェリアで労務者が前人未到の詐欺犯罪に挑戦した。
ラゴス市の工事現場で働いていたその男、給料にもらった小切手の額面を、9ポンド4シリングを6億9千7百万90ポンド4シリングに書き換えたのである。
この犯行は男が小切手を現金化しようとする瞬間まで、とんとん拍子に行っていた。
1937年、イギリス、スピッドヘッド港で満艦飾の艦艇にイルミネーションがつけられた。実況を担当した海軍中佐トミー・ウッドルーフは、その模様をつたえる珍解説を放送し、聴取者に大きな「感銘」を与えた。
放送開始前に中佐殿は、祝賀パーティーに参加して、いささか、お酒を召し上がっていた。
そのため、中佐殿の解説はしどろもどろ、おまけに最高11秒間の沈黙によって再三中断される始末。
「目下、艦隊全体が光り輝いております。<光り輝く>というのは、色つきの豆電球で煌々とてらされているということであります。あの光景はとてもこの世のものとはおもえません。もはやあれは艦隊ではありません。あれはまさしく・・・おとぎの国であります。艦隊は一隻のこらず、おとぎの国に入っているのです。さて、私の話をこのまま聞いてくだされば・・・まもなく艦隊が世にも不思議なことを行う場面をお伝えできるでしょう」
ここで長い間をおく。
「申し訳ありませんでした。となりにいる人におしゃべりをやめてくれと頼んでいたんです。」と嬉々として中佐殿は説明した。
ちょうどその時、艦隊の電球が全部消え、ロケットが打ち上げられることになった。
ウッドルーフ中佐の感想は
「消えました。消えました。艦隊はもはやありません。要するに・・・消滅したのであります。かつてこの世で魔法の杖を振ったことのあるいかなる魔術師といえども、ただいまほど見事にやってのけることはできなかったでありましょう。艦隊がなくなったのであります。消えてしまったのであります」
そして次に
「私がこうして実況をお知らせするために立っております場所は、このくそいまいましい・・・(咳払い)この艦隊のど真ん中でありまして、そこでなにが起こったかと申しますと、艦隊は、なくなり、消えてしまい、なくなってしまったのであります」
ウッドルーフ中佐の声がかすんで消えていった。アナウンサーが、「これをもちましてスピッドヘッドからの実況放送を終わります」と告げ、ダンス・ミュージックが流れてきた。
あとでウッドルーフ艦長殿いわく、「あのときは感極まってしまってね」
マギー司郎よりおもしろいかもしれない魔術師
トミー・クーパーという英雄が、おのれの特異な才能を発見されたのはつぎの経緯によるものだった。
17歳のとき、船大工の修業をしていたクーパーは、イギリス、エセックス州ハイド市で催された造船会社の音楽界に出演した。ところが、マジックを演じるつもりで舞台に出たものの、幕が開いた途端に、セリフをすっかり忘れてしまった。
しばらくぼうぜんとつったって口をぱくぱくされていると、観客席は期待で静まり返った。「よし、このままやっちまおう」とクーパーは意を決した。
が、案ずるより産むがやすしどころか、やることなすことうまくいかない。
とうとう最後のとっておきの演目、牛乳瓶の手品をやる段になった。
「ここに牛乳のいっぱい入った瓶があります」とうっとりしている観客に口上を述べる。「この瓶の口のところに紙をかぶせてから瓶をさかさまにして紙をどけても、牛乳はこぼれません」
観客がかたずをのんで見守る中で、クーパー君は瓶を下向きにして紙をひっこめた。たちまち、ぱっと噴き出した牛乳で手品師の全身はぐしょぬれ。
これでもまだ十分ではないとでもいうように、われらが迷手品使いは舞台おじして、しきりに口を動かすだけで、声は一向に出てこない。おまけに全身に震えがきたとあっては万事休す、汗びっしょりで退場するのが精いっぱいだった。楽屋に入ったクーパー君の耳に全員総立ちの拍手と歓声がとびこんできた。彼の未来の栄光がかくして保証されたのである。
やりすぎ
1967年3月、ナイジェリアで労務者が前人未到の詐欺犯罪に挑戦した。
ラゴス市の工事現場で働いていたその男、給料にもらった小切手の額面を、9ポンド4シリングを6億9千7百万90ポンド4シリングに書き換えたのである。
この犯行は男が小切手を現金化しようとする瞬間まで、とんとん拍子に行っていた。