『どうする家康』第16回『信玄を怒らせるな』簡易感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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※基本、ネタバレ有となっていますので、ご注意下さい。

 

 

2024年に比べると『もうちょい優先順位の高い題材があったやろ』と思わないではありませんが、江戸中期の文化人枠というチョイス自体は圧倒的に評価出来る2025年の大河ドラマ。来年と連続で大成功を収めて今後の文化人系大河の一つのモデルケースになることを願います。ただ、これで二年連続主人公が直接的には戦争と無縁の題材になるので、今年の『どうする家康』は今まで以上に合戦シーンに力を入れて欲しい。あと、題材&脚本家的に大河ドラマというよりも日曜劇場に近い雰囲気の作品になる可能性が高そう。それはそれで面白さを追求する一つの方策ではあるのですが、そろそろサムライ&アクション&ハラキリというオーソドックスなNHKの大河ドラマが見たいという気持ちもないではありません。戦国&幕末ループから脱した途端、ベタな大河を要求するとか贅沢な物言いとの自覚はありますが、創作ラーメンの食べ歩きに慣れると近所の中華料理屋のクラシカルなラーメンが無性に恋しくなるように、むさ苦しく堅苦しいおっさんたちの蒸れたチョンマゲから漂う汗臭さが画面越しにも伝わる作品を見たくなるのも人間の情ではないかと思います、思えない?

先週痛めた腰がほぼほぼ完治していないので、今週の感想も短め&来週は大きな予定が入っているので松潤が焼味噌を漏らさないかぎりは更新は難しいそうです。予め御了承下さいませ。全国民から漏らすことを期待されるアイドルって新鮮。ポイントは3つ。

 

 

井伊虎松「遠江の民はみ~んな、お前を恨んでおるわ! 徳川家康は疫病神の裏切り者だとみ~んな申しておるわ! 遠江から出ていけ! 武田様は我らの御味方。我らの暮らしを助けてくれる。武田様こそ新たな国主様に相応しい! お前なんぞ武田信玄に滅ぼされるに決まっておる! ざまあみろ!」

 

クソデカ主語で未来のタチ役……じゃない、主君をディスりまくる戦国最強の9歳児、井伊虎松。成長著しいからね、仕方ないね。『おんな城主直虎』の時もそうであったように殺したいほど憎んでいた相手と結ばれるのは恋愛劇の王道なので、万千代寵童化の前フリとしては完璧といえるでしょう。焼味噌に加えて衆道まで求められるとか、松潤の期待値ハードルがヤバいことになっている気がします。

一方、虎松を筆頭に遠江の人々が斯くも家康を忌み嫌う動機づけが不足していたのは否めない。まぁ、旧説と異なり、今川時代に人質としては下にも置かないレベルで厚遇されていたので、その恩を忘れてボンボンを追放した家康に対するジモティーの印象が最悪なのは理解出来るとはいえ、ここはバシッと気賀城撫で斬り事件を描いておいたほうが視聴者の感情移入の手助けになったと思います。それにしても、上記の虎松の言い分がほぼほぼプレ大賀弥四郎になっているのが意味深。信康事件もこの延長線上に位置づけられるということでしょうか。

 

 

松平勝俊「私はひどい仕打ちを受けた訳ではありません。信玄は私をただ同じに扱ったまで。甲斐の若い侍は皆、同じ鍛錬を……むしろ、私は一番優しく扱われ……他の者たちはもっとずっと……中でも信玄の息子は誰よりも厳しく激しく鍛えられており……彼らは化け物でございます。甲斐の侍と戦って勝てる者はおりませぬ」

 

如何に格下とはいえ、未来の両家の取次を務めるであろう大事な人質に対する武田の扱いはどうなっておるねんとツッコミたくなった圧倒的虐待シーンでしたが、まさかの他の甲斐の若者と同じように扱っている実子の四郎にはもっと厳しく当たっているからセーフ理論。『どの出自であろうと平等に価値がないと見做しているから俺は差別主義者ではない』というハートマン軍曹の言い分に近いものがあるように思います、思えない? 全く戦国の甲斐は地獄だぜ! 武田といい、織田といい、人質に対する扱いがアレ過ぎる件。そら、家康もホワイト企業今川家を懐かしむのも道理というものです。武田軍、総大将はローマ人で軍勢はスパルタ兵だった。実に多様性に富んだ大河ドラマやね(白目)

源三郎が『甲斐の若者は全員スパルタ教育されているから、ワイ一人が虐待を受けた訳ではないから武田を責めないで』と家康に語るのも、ブラック企業やスパルタ教育機関で物理的に洗脳されてしまった被害者感が凄いですが、実質的にはほぼほぼ合戦シーンがない武田家の強さの秘密を一発で視聴者に印象づける手段としては面白かったです。松平勝俊という兄に比べて認知度が高くない人物の、三方ヶ原の戦いの前に甲斐を脱した逸話をベースに大きく物語を膨らませたのが吉と出ました。やっぱり、史実や逸話をベースにすると話がブレないね。でも、実子の四郎には(少なくとも政治的配慮の点では)もっと優しく接してあげて下さい。

 

 

武田信玄「国に帰ったら、其方の兄上に話してやるがよい、ここでのことをありのままにな。そして、こう伝えよ。弱き主君は害悪なり。滅ぶが民のためなり」

 

『ありのままに兄に話すのよ』とビミョーな穴雪テイストを感じた信玄の伝言。前項で『将来の両家の外交を取り持つ人質を虐待してどうする』とツッコミましたが、信玄的には初手から恫喝外交を想定して、源三郎を物理的に可愛がっていたと考えると筋が通るような気もします、気がしない? 実際、オカンが源三郎の近況を探らせた時も真相をひた隠しにしたように、家康も家臣団も終盤までは何としても信玄との戦は避けねばならないとの姿勢に終始する弱腰っぷりでした。これが『イクサハイヤデゴザイマスル』ではなく、シンプルに『うちの殿では信玄に手も足も出ないから戦は避けねばならない』という理屈で動いているの、ホンマ好き。まぁ、最終的には源三郎の件で積もり積もった鬱憤が爆発して、対武田に転じてしまうのですが、これすらも信玄の掌の上でしょう。本作の信玄、細かな謀略シーンとかは殆どないのに謎のツワモノ感を出すことには成功しています。

尤も、上記の『弱き主君は害悪なり。滅ぶが民のためなり』という言葉も、信玄は自分自身に言い聞かせている部分もあると思います。今回、信玄の死亡フラグと思しき胃痛の場面が散見しましたが、彼自身も弱気になりそうな己を奮い立たせるために敵に厳しい言葉を叩きつけることで、自らの退路を絶ったのではないでしょうか。まぁ、その言葉が巡り巡って勝頼の代に全ての負債を押しつけることになってしまう訳ですが、本作の勝頼を見ていると武田は本当に滅亡するのかと不安になるツワモノオーラがあるからなぁ。多分、ステゴロなら家康どころか信長でも勝てんだろ。この四郎なら土屋昌恒が登場しなくても片手千人斬りのエピソードをやれそうで怖いです。

あ、あと、家康から謙信への密書が露見したのは望月女史の活躍ではなく、密書の相手も同じ阿部寛だったから説、好き。