『~literacy Bar~』特選・2014年ベスト10+α(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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ここはイマイチ社会性のない自称・のんぽりマスターの管理人が、
時事、徒然、歴史、ドラマ、アニメ、映画、小説、漫画の感想などをスナック感覚の気軽さで書き綴るブログです。
※基本、ネタバレ有となっていますので、ご注意下さい。

今年、管理人が触れた諸々の作品の中で特に印象に残ったものを列挙する年末恒例企画。今年はノミネート候補作が目白押しで、嬉しい悲鳴をあげながら選出作業にかかったものである。個々の作品のクオリティの高さもあるが、私のメンタルがリアル事情で些か神経過敏になっていたことも原因の一つ。しんどい時こそ、いい作品に触れて癒されたくなるのか、諸々の作品へのアンテナが敏感になっていたと思われる。まぁ、多くの作品に触れた分、駄作を目にする機会も多く、ラジー賞にも複数の作品がノミネートされるという嬉しくない事態も発生した。ちなみに第20位~第11位は順位不定で以下の通り。

『達人伝』
『空の境界・未来福音』
『北斗の拳イチゴ味』
『仮面ライダー鎧武』
『Gのレコンギスタ』
『月刊少女野崎くん』
『ウィッチクラフトワークス』
『ゼロ・グラビティ』
『ソードアートオンライン2』
『コンプレックス・エイジ』


イチオシは『達人伝』。雄渾で精緻な画風と裏腹に、広げた風呂敷を綺麗に畳んだことがない王欣太氏のヤンチャな作風が、秦による統一支配~漢による儒教支配が定着化する以前の絢爛にして野放図な古代中国の世界観と絶妙にマッチしている。このテの漫画は『センゴク』のように作者の勉強していますアピールが滲み出てしまうものであるが、本作は氏の代表作『蒼天航路』の、

賈詡「今まで敵について聞き知ったことは、それまでにすべて忘れ去れ。おまえひとり、何の前提もない境地から策を放り出す。曹操軍中のすぐれた軍師は誰もがみな、一度は通った道だ」

という言葉通りの、勉強で得た知識に引きずられない思いきりのよさに満ちている点も魅力の一つ。『センゴク』を批判しているワケではありません、念のため。単純に私の嗜好に適わないというだけで、あれはあれで凄い作品だと思います。ヴァーチャルからリアルを変えるというコンセプトに徹底した『SAO2』と、紙兵ウサギとぬいぐるみ熊のプロレス描写に度肝を抜かれたアニメ版『ウィッチクラフトワークス』にも楽しませて頂いた。逆に@一押しが欲しかったのが『コンプレックス・エイジ』。物語冒頭の、

片浦渚「やっぱり、私は完璧だわ」

という台詞に『わたモテ』系のヲタクに痛過ぎる鬱展開を期待したのだが……うーん、いや、これはこれで嫌いじゃないんですけれどもね。それではランキングの発表に移りたい。

第10位 『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』(映画)

塩原佑馬「俺たちに人権はない」

『何で今更?』&『何で実写化?』という、過去の名作アニメ・漫画の映画化にツキモノの批判を完全にクリアした世にも稀有な作品。本作には『現在』の『実写』でなければ描けないもので溢れている。上記の佑馬の台詞に象徴される超過勤務、格差社会、ネット依存症、ドンづまりの未来といった主人公たちの労働環境は現代社会の縮図であり、第二話の『如何にレイバーを動かさないか』に腐心する特車二課の辛苦は、アニメよりも実写のほうが遥かに適した表現形態である(軽々とロボットが動くアニメの中で、レイバーが倒れるか倒れないかなんてネタをやっても、面白くもなんともない)。元々、パトレイバーは社会の最先端・最前線を先取りする作品であったことを考えると、過去の名作をそのまま実写化するのではなく、現代を舞台にパトレイバーを改めて描くとしたらどうなるかを突き詰めたのが本作といえる。大抵の実写化は『それ』をやろうとして原作から完全に逸脱した作品に成り下がるのだが、本作は押井御大自ら指揮を執ったおかげで、原作との齟齬を完璧に抑えられたといえよう。謎のゲーマーや海中に出没する大怪獣、ラジオから聞こえる何処かで聞いた二人のパーソナリティーの声といった原作リスペクトネタも多く、パトレイバーファンであれば、大抵はニヤリとさせられるに違いない。実写化に抵抗を感じて見ておられない方にこそオススメしたい作品。尚、本作で後藤田隊長を演じる筧利夫さんが最高のハマリ役。今年の私的アカデミー男優賞は彼以外にあり得ない。

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第9位 『名探偵モンク』 (海外ドラマ)

エイドリアン・モンク「天賦の才です、難儀なね」

名探偵とは颯爽たるものという風潮が蔓延って久しいが、ホームズや杉下のように、常人が見落としている情報を漏らさず気に掛けていたら、日常生活に支障を来すのではないかと昔から考えていた。そんな私にとって、人並み外れた天賦の注意力&観察力&記憶力と裏表の強迫性障害に苦しむエイドリアン・モンクは名探偵のリアルを見た思いである。名探偵は総じて孤高の存在であるが、その多くが自らの才能を恃んだポジティブな孤高であるのに対して、モンクの孤高は自罰的でネガティブだ。こう書くと何やら重苦しい話に聞こえるかも知れないが、トリックもストーリーもキャラクターも実に明晰で軽妙。特にモンクの空気の読めなさ加減とディッシャーの残念なイケメンっぷりは、毎回何処かで必ず笑わせてくれる。これほどに肩の力を抜いて楽しめるミステリ作品も稀であろう。
理想の上司は津上邦明。
理想の部下はニッカ・タンブラ。
理想の女性はアーシェス・ネイ&井河アサギ。
理想の漫画家は冨士鷹ジュビロ。
理想の格闘家はイグナシオ・ダ・シルバ。
そして、私の理想のカテゴリにエイドリアン・モンクの名が加わった。彼こそが私の理想の名探偵である。

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第8位 『ダウントン・アビー』(海外ドラマ)

Violet Crawley「What is a weekend?」

字幕版で楽しみたかった作品なので、台詞も英語。確かに貴族には週末という概念はないよなぁ。
本作の魅力は兎に角、第一部の第一話に尽きる。勿論、それ以降も充分に面白いとはいえ、物語が大きく動く契機となった『或る知らせ』が伝わるまでのクローリー家の日常を描いた場面が『ダウントン・アビー』の核心であろう。登場人物の序列の低い順から、それぞれのキャラの仕事を順番に描いてゆくことで、屋敷の、ひいては当時の英国の秩序社会を描ききる様は圧巻の一言。この序盤の秩序に満ちた描写があるからこそ、時代の変遷と共に変化を余儀なくされるクローリー家の悲喜劇が際立つといえる。登場人物の造形も実に英国の雰囲気たっぷり。常に本音の二言三言手前で言葉を留める奥ゆかしさ、或いは底意地の悪さは、まさに英国人の典型。何から何まで本音丸出しで会話する日本のドラマの殆ど(全てではない)が如何に幼稚で浅はかに見えることか。上記のヴァイオレット・クローリーも矜持と裏表の高慢な為人であるが、彼女の言葉はイヤミ一つ取っても品位と格調の高さが窺える。本作はドラマの内容よりも、その濃厚な雰囲気を楽しむ作品といえるかも知れない。

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第7位 『ガールズ&パンツァー・これが本当のアンツィオ戦です!』(OVA)

アンチョビ「いいか、見せつけてやれ! アンツィオは弱くない……じゃなかった、強いということを!」

昨年のベスト10で同率第一位に輝いたガルパンの番外編が今年もランクイン。詳細は当該記事に譲るとして、正味30分強の尺に『本編の縮図』『番外編OVA』『劇場版の予告編前』の3つの要素を無理なくブチ込んだ贅沢な構成の妙が光った作品。勿論、戦車に対するいい意味で歪んだ愛情たっぷりの描写も見逃せない。八九式といい、今回のCV33といい、必ずしも評価の芳しくない戦車のほうが優遇される本作の傾向は、真に戦車が好きでないと出てこない発想だ。まさに歪んだ愛。唯一の瑕瑾は劇場版の公開が夏に延期されたこと。冬の越後~信濃路を越えなくてよくなったのは幸いとはいえ、オアヅケを喰らった感は否めない。とはいえ、その分はクオリティが高くなる&来年のベスト10のためにとっておけると思うことにしよう。

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第6位 『修羅の門 第弐門』(漫画)

山田さん「あいつの遺伝子上の父は僕です」

今月号で第弐門に一区切りをつけた『修羅の門』が、連載再開の2010年&きばっち登場の2011年以来、久々のランクイン。紆余曲折があったとはいえ、九十九VS姜子牙のクライマックスは盛りあがった。まさか、舞子を狙う&四門の動きについていくとはね。些か前フリが乏しかったとはいえ、最強の敵という九十九の評価に恥じない内容であったと思う。試合以外では上記の山田さんの告白が衝撃度高し。てっきり、九十九の父親はケンシン・マエダだと思っていたからなぁ。いや、素直に第弐門を読み返すと山田さん以外にあり得ないのだが、先入観というのは恐ろしい。しかし、何よりも嬉しかったのが、

『白虎』と『青龍』を拝めたこと

である。第壱門が無期限休載に入った時、残りの二つは永遠に拝めないままなんだという絶望を覚えたものだ。爾来二十年弱、漸く胸の閊えが取れた気分である。これは山田さんの告白と真逆に第壱門から読んできた読者にしか判らない感慨であろう。川原センセ、本当にありがとうございました。

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ちなみに第4位は同点で2作品。

第4位 『ガンダムビルドファイターズ』(TVアニメ)

メイジン・カワグチ「これは戦争などではない! ガンプラバトルだ!」

現在放送中の続編『トライ』ではなく、3月に放送が終了した『1st』(?)のほうが二年連続のランクイン。『トライ』に不満があるワケではありません、念のため。作品に対する評価は昨年のベスト10を御覧頂けると幸いである。何もかもがどうでもよく思える瞬間が幾度もあった今年の初旬。しかし、そんな状態にあっても、一切を忘れて純粋に楽しめたのが本作。

与力「俺は『ビルドファイターズ』を見終えるまでは何があっても死にたくないもんね」

という若き日の夢枕獏氏にとっての『あしたのジョー』のような存在。それが『ガンダムビルドファイターズ』であった。冗談や誇張抜きで私の心を救ってくれた作品と評しても過言ではない。元気が出る……というよりも、辛いことを一時でも忘れて楽しめるので、気が沈んでしまって仕方がない人に強くオススメしたい、ワリとマジで。ガンダムやガンプラの知識がなくても普通に楽しめるしね。

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第4位 『アオイホノオ』 (漫画&ドラマ)

山賀博之「ねえねえ、今の誰?」

庵野秀明「」
赤井孝美「」
武田康廣「」
岡田斗司夫「」


こちらも『ビルドファイターズ』と同じく、二年連続のランクイン。昨年の記事で引用した『○×○マークや!』には爆笑したが、今回の記事で引用した山賀の台詞は、漫画と判っていても背筋が凍りついたものである。史実か? 史実なのか? 本作は基本、フィクションという設定になっているものの、昨年の記事で書いたように、どう見てもドキュメンタリーとしか思えないリアリティに溢れているからなぁ。ちなみに先月号で島本和h……じゃない、焔燃が大学のバスケの試合中に、漫画やアニメの登場人物さながらに燃える台詞を叫んだというのも史実。そうなると山賀の一件も……まさかね(震え声)
原作は元より、ドラマ版も秀逸な出来であった。一見するとワザとらしく、大袈裟な絶叫シーンばかりに見えるが、地力でチャリンコを漕いでいる矢野健太郎と動かないバイクに跨る焔燃の対比や、漫画には向かないと酷評した筈の『AKIRA』に自覚なしに嵌っている描写など、細かい点で計算された演出がキラリと光る佳作。馬鹿みたいな熱血ギャグの裏側にシリアスな技法を組み込むのは島本和彦の作風そのものであり、それを実写で体現した福田雄一氏の原作の読み込みとリスペクトはホンモノである。流石に『HK』を実写化した実績は伊達じゃない。

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第3位 『機動戦士ガンダムUC』(OVA)

サイアム・ビスト「……待っていた、たった一つのことを伝えるために」

まずは遅ればせながら、サイアム・ビストを演じた永井一郎さんに改めて哀悼の意を表したい。図らずも、最晩年に演じた役柄と現実の逝去が重なった永井さんの訃報に接した時、不敗の魔術師の退場と前後して世を去った富山敬さんを想起した方も多いのではないか。私自身、もう御世辞にも若いとはいえない年齢に差し掛かっており、ヤンがユリアンに、サイアムがバナージに託したように、自分のためではなく、次の世代のために髪の毛一筋ほどでもいい、何かを託したいとの思いが頭を過ることが一再ではない。その思いを新たにする契機をくれたのが本作であった。次代を担う若者に何を賭けて、何を託すのかという『哀・戦士』編の主題に象徴されるガンダムのテーマの一つを、本作は見事に描ききったといえよう。まぁ、肝心の託すに足るモノを果たして私自身が持っているか否かが最大の問題であるのだが……個々の感想については当該記事に記してあるので、ここでは省略。兎も角も、このブログを運営する一つのモチベーションとなった作品を大団円で締め括ってくれたスタッフに感謝の念を贈りたい。

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第2位 『プリキュアオールスターズNewStage3 ~永遠のともだち~』 (劇場アニメ)

キュアマリン「な~んだ夢か。夢ならいっか」

歴代のプリキュアオールスターズでは間違いなく、ダントツのクオリティを誇る作品。基本、オールスターズはお祭り要素が濃厚であり、それは完全に正しい選択であるが、本作は更にメッセージ性を投入して、それに成功したことが大きい。夢を追うことの難しさと大切さ。子供の自立と母親の子離れ。特にユメタとマァムと通じて描かれた後者は人類……否、生物の永遠のテーマであり、プリキュアという正義のヒーロー(ヒロインではない)と戦ってまで子供を世間の荒波から守ろうとするマァムの過度の母性本能と、それが怠惰と知りながらもズルズルと母親の庇護に甘んじてしまうユメタにカーチャンとゆうすけを思い出した大きなお友だちも多いのではないか。
勿論、メッセージ性ばかりでなく、お祭り要素、更にはバトル面の充実度も満点。もうチーム戦というよりもフルアライアンス戦とでも評するしかない数十人のプリキュアによる激烈バトルは圧巻の一言。六花の『呆れるほど(敵が)沢山いるわね』という台詞におまえらがいうなと突っ込んだ人も多い筈。TV版では何かと表現規制が厳しいのか、過激なバトルができない分、本作のメインバトルはキュアハートのヒジから入るというエゲツナサを披露。そういえば、上映直後に書いた感想記事では蛇足or勇み足と評したキュアハニーの飛び入り参戦も、今では充分に納得できる。終盤でラブリーとプリンセスをヒールした姿は実に頼もしかった。HNM戦でヒーラーがいるといないとでは安心感が違うからなぁ。

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第1位 『ゲーム・オブ・スローンズ』(海外ドラマ)

『ラニスターは常に借りを返す』(ラニスター家の格言)

このブログ史上、最高の作品数が脳内ノミネートされた今年のランキング。しかし、それらの作品群の全てを今年の終盤で一気にゴボウ抜きにしてトップに躍り出たのが本作である。レンタルショップでパッケージを見た時から面白いだろうと予想はしていたが、まさか、ここまでとは思わなかった。昨年は選出を悩んだ挙句の三作品同時受賞であったが、今年の第一位は文句なしの単独トップ当選である。
架空の大陸ウェスタロスとエッソスを舞台に繰り広げられるダークファンタジー大河……と書くとCGやアクションシーンしか見所のない凡百のアクション活劇と混同されそうであるが、さにあらず。

逆に戦闘シーンは殆どない。

日本でレンタルが解禁されている第3シリーズまでの内容でいうと、まともな会戦が描かれたのはブラックウォーターの戦いくらいである。私の贔屓キャラであるロブ・スタークの戦いなんか、全く描かれたことがない。しかし、それを補って余りあるのが先の読めないストーリー展開、生半な剣劇などは足元にも及ばない謀略の応酬、そして、何よりも登場人物たちの台詞に溢れる知性と比喩の巧みさである。

ティリオン・ラニスター「私は自分の家の名誉の為に、自分の役割を果たさなければならない。兄は剣がある。そして、私は精神がある。剣には砥石が必要なように、精神には本が必要だ。だから、これほど本を読むのだよ」

このレベルの会話が劇中では恒常的に交わされていると思って頂いて間違いない。こうした台詞の応酬に比べれば、生半可な戦闘シーンなどは蛇足と思えてしまうほどだ。
初めて観賞した時の感想は……この表現を用いると逆に敬遠される方もおられるかも知れないが、田中芳樹センセ(黒)の作品を実写化したらこうなるんじゃないかと思う。実際、キャスタリーロック公、タイウィン・ラニスターの智謀と威厳、そして、合理性の果てに真っ直ぐに歪んだ人間性はアジュマーン・タイタニアを彷彿とさせる。敬して遠ざけたいという言葉が彼ほどに似あうキャラクターも稀であろう。勿論、他の登場キャラクターも善くも悪くも……というか、明らかに人道的に悪い意味で個性に溢れた連中ばかりで、それぞれに贔屓がいるのも頷ける。私個人は順当にロブ・スターク。本作では数少ない真っ直ぐな人間性を評価してのことであるが、私のような人間がマトモなキャラクターに感情移入する段階で、この作品のクセモノっぷりがお判り頂けるのではないか。現時点でレンタル解禁されている範囲では、彼に感情移入して見ると如何に本作が劇的であるかを堪能できると思う……楽しめるとはいっていない、念のため。登場人物で誰になりたいかと問われれば……ブロンかなぁ。ああいう腕一本で何処でも生きてゆく自信のある風来坊というのは男の理想の一形態。逆に絶対になりたくないのはシオン・グレイジョイ。これは本作を御覧になった男性視聴者は無条件で賛同して頂けると確信している。
過激な性写や残虐シーンも多く、子供には勧められないものの、多少なりともエログロナンセンスに耐性があり、歴史大河orダークファンタジーor政治謀略劇が好みの方は是非、御覧頂きたい。見て! 兎に角、見て!

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さて、ここからは毎年不恒例(?)のゴールデンラズベリー賞の発表である。冒頭で記したように、今年は例年よりも多くの作品に接した分、どうしょうもない作品に巡りあう契機も多かった。どう考えても二本に分割する意味がなかった『SPEC』劇場版完結編、リアル時間でン十年前と同じ過ちで主人公を負けさせた『はじめの一歩』、魏晋南北朝の血腥さの欠片もない能天気なラブコメ劇に終始した『蘭陵王』、内容は兎も角、何処が最高難易度の密室だと突っ込みたくなった『相棒・劇場版3』……これらの有力候補者は何とか篩い落としたものの、それでも、三つの作品が残ってしまった。こうなったら、昨年の第1位と真逆に、今年はゴールデンラズベリー賞を三作品に授与したいと思う。

ゴールデンラズベリー賞① 『軍師官兵衛』(大河ドラマ)

黒田官兵衛「黒田が支えねば、豊臣は……いや、この国が滅びてしまう!」

まずは多くの方が予想しておられるであろう今年の大河ドラマが順当に受賞。昨年は第一部限定とはいえ、大河ドラマがベスト10に入ったというのに……或いは昨年のがマグレ当たりで、今年の結果が大河ドラマの置かれた現状・惨状と考えるべきなのか。
作品の詳細と批評に関しては総評記事で述べた通りなので、ここでは繰り返さない……というか、繰り返せない。既に内容は記憶にない。中身のなさという点では近年屈指のテイタラクであった。『GO』ほどの害悪さはないにせよ、充分に『天地人』に伍する駄作であり、あの当時にブログをやっていれば、間違いなく『天地人』を受賞させたであろうから、本作にも同様の処置を下させて頂いた。ちなみに上記のクロカンの台詞は今世紀最大のギャク。私が生きている間は、これ以上に失笑させてくれる台詞と遭遇することはないであろう……と信じたい。

ゴールデンラズベリー賞② 『独眼竜政宗』(大河ドラマ・再放送)

伊達政宗「政宗の胸中、一点の曇りもござらん!」(`・ω・´)

まず、最初に述べておきたいが、作品そのものには何の不満もない。昨年、本賞を受賞した『風立ちぬ』と同じく、内容以外の事情が選出の理由である。端的にいうと現役の大河ドラマを背後から撃つようなタイミングで再放送が始まったことへの不満。実際、再放送が決まった時には、

神保相茂「流石は北のDQN眼竜、味方の背中を撃たせたら右に出る者はおらんでぇ」

という幻聴が聞こえた気がした。『軍師官兵衛』は『独眼竜政宗』が放送されてもされなくても、ラジー賞にノミネートしたであろうが、それでも、大河史上最高のエンターテイメント作と比較されたことに一抹の同情は禁じ得ない……というか、今年の出涸らし大河ドラマに同情してしまうような心境に私を追い込んだことが、本作にラジー賞を贈る理由である。
真面目な話、本作が再放送されるまでは、私は『駄作と評されても作り続けることが大事。過去の名作に縋り、新作を諦めてしまうようでは大河ドラマはお終いだ』と考えていたが、今回のことで大きく心が揺らいだ。もう、多くの大河ファンが口にしているように、新作は三年に一度くらいにして、その間を過去の名作で繋いだほうが視聴者も喜ぶし、予算の節約にもなるのではないかと思えてきた。まぁ、予算という奴は活動をやめたからといって、簡単にプールできるものではないが、これほどにまざまざと過去作品とのクオリティの差を見せられるとなぁ。面白ければ面白いほどに、現役の大河ドラマへの情熱に水を刺された思いがした。
色々と文句をつけてきたが、再放送そのものは本当に嬉しかった。『独眼竜政宗』が終わったら、次は『太平記』をお願いします。リアルの放送順序を考えると『武田信玄』でもいいかも。

ゴールデンラズベリー賞③ 『永遠の0』(映画)

宮部久蔵「どんなに苦しくても、生き延びる努力をしろ!」ドヤァッ

その努力をしていない奴に言われてもなぁ。

この作品も『独眼竜政宗』とは別の意味で、ラジー賞を授与するのに躊躇いがあった。扱っている題材が題材であり、これを批判すると全くピント外れのレッテルを張られるような気がして、大人しく放置しておきたくもあった。しかし、あまりの出来の悪さにリアルで嘔吐したという数年ぶりの経験が私の背中を押した。DVDでの観賞ではなく、上映当時に映画館に足を運んでいたら、とんだバ口をやらかしていたかと思うと、心底肝が冷える。
繰り返すが、本作の題材そのものへの賛否を論ずる意志も意欲もない。本作がラジー賞を受賞したのは単純に創作劇として劣悪であったためである。兎に角、本作の主人公が何で主要な登場人物に激賞されているのかがサッパリ判らない。本作観賞後に原作を読んだが、そちらでは主人公が生き抜くために非常にエグいこともしている。自分の出来る範囲で少しでもリスクを避けるために、卑怯者や臆病者という誹りも甘んじて受ける。しかし、それが大局的には自軍の戦力温存になり、ひいては己の生存にも繋がるという一貫した理論が構築されていた。まぁ、余りの完璧超人っぷりには、

ぼくが かんがえた さいきょうのぱいろっと

感は否めないとはいえ、作者が何を言わんとしているかはハッキリと伝わってきたのは確かだ。
それに引き換え、本作における主人公の何もしていない感は半端ない。作中で主人公が生き延びるためにしたことは筋トレだけであった。そんな主人公が主要登場人物全員から激賞される本作の展開は薄気味悪いの一言に尽きる。戦中から既にスジモノオーラ満載の景浦介山のほうが人間としてもパイロットとしても遥かにマトモ。戦闘の描写も映像技術に頼りきりで、何処で誰の部隊が何のために戦っているのかがサッパリ判らない(まぁ、太平洋戦争の日本軍の活動をリアルに描くとそうなるという理屈もある)。主人公の夫婦愛の描写や現代パートでの孫の懊悩も、従来の戦争映画の焼き直しばかりでゲンナリした。

題材のよさをまるで活かせない作劇。
何もしてないのに登場人物たちから絶賛される主人公。
メッセージ性の欠片も伝わらないストーリー展開。
他人の手垢に塗れたテンプレ描写の連打。


どこかで見た批判と思われた方も多いのではないか。そう、本作の欠点は『軍師官兵衛』と瓜二つなのだ。もっとぶっちゃけると『軍師官兵衛』が一年五十回かけて描いた欠点を二時間強に煮詰めて濃縮したのが本作であり、そんなのを見たら吐くのも道理ってモンである。勿論、本作が好きという意見があるのも当然であり、それは尊重されるべきである。しかし、思想信条によらず、純粋に物語として性にあわないと批判する自由も尊重されて然るべきだと思い、勇気を奮って本作にラジー賞を授与させて頂いた。
ちなみに些か捻くれた見方をすると、実は本作はトンデモないリアルに溢れた名作でないかと思える解釈も私の中に存在する。ただし、その内容はブログでも現実世界でも表明できない類のシロモノであり、ここでの言及は御容赦願いたい。ヒントは孫と介山の二度目の邂逅シーン。ホネタではありません、念のため。
今年のラジー賞を一言で表現するとオカジュンの受難といえるかも知れない。『軍師官兵衛』も『永遠の0』も世間での評価は概ね芳しいので、私個人の見解に過ぎないが、それでも、私の中のオカジュン株はググッと下がっちゃったなぁ。真面目な話、劇場版『永遠の0』と『軍師官兵衛』の同時受賞は主人公の魅力を道徳的な価値観でしか表現できないという、近年の創作劇の抱える問題点を露呈したように思う。尤も、両作品共に世間的には大成功の部類に入るらしいので、或いは私のように考える人間のほうがアレなのか。

さて、来年の候補作品としては、何を措いても『ガルパン』&『PSYCHO-PASS』の劇場版……去年も同じことを書いた記憶があるが、気にしないでおこう。後半戦に突入した『ビルドファイターズトライ』&『Gのレコンギスタ』にも注目。『トライ』は見ている側のニヤニヤが、一方の『Gレコ』はニコニコがとまらない名作である。純粋に物語を楽しめるという点ではガンダム作品の白眉かと。あとは今年の作品でありながら、今回はノミネートされなかった『楽園追放』も台風の目。いや、面白いという評価はそこかしこで見かけるが、流石に未見の作品のDVDを買うほどの度胸はなかったので……レンタルが解禁されたら、じっくりと観賞させて頂きたい。
尚、ラジー賞最有力候補は『花燃ゆ』。間違いない。

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