『相棒ten(10)』第19話(最終回)『罪と罰』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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※基本、ネタバレ有となっていますので、ご注意下さい。

神戸尊「杉下さんがどうしてもクローンの一件で嘉神博士を検挙するというんであれば……僕は今すぐ、茜さんのお腹の子供を始末します」

杉下右京「……何をいってるのか、自分で理解していますか?」

神戸尊「えぇ、子供が生まれないんであれば、クローンのことが公になっても平気です。嘉神博士がマッド・サイエンティストの一人に名を連ねるだけ。ですから、杉下さんがどうしても検挙したいというんであれば、僕はそれに協力するといってるんですよ」

杉下右京「子供を始末することが協力ですか?」

神戸尊「貴方がどうしても検挙したいといってる以上、僕が相棒として協力できるのは、それだけですから」

杉下右京「…………」

神戸尊「二者択一です。検挙を諦めてクローンのことに目を瞑るか、検挙するために僕にお腹の子供を始末させるか……選んで下さい」

杉下右京「君は、この僕を脅しているのですか?」

神戸尊「さぁ、どっちですか……杉下さん!」

杉下右京「……存外、ずるいですねぇ、君は。君に人殺しをさせるわけにはいかないじゃないですか」

神戸尊「そう、僕が殺そうとしているのは人間なんです。怪物なんかじゃない」


ラスト30分、怒涛の畳みかけでした。


杉下の正義に対するアンチテーゼという、亀山ではなし得なかった神戸ならではの相棒像が見事に描かれていました。杉下を相手に真実の追究で譲歩を勝ち取ったのは、神戸が初めてじゃないでしょうか。多分、人類史上、初の快挙。全体の3/4辺りまではダラダラとした展開でしたので、おいおい、こんなんが最終回で大丈夫かよと本気で心配しましたが、ラストの濃ぃいこと濃ぃいこと。あのクールな神戸が刺し違えてでも杉下の暴走を停めたんですよ。この瞬間を待っていたんですよ。実に神戸の卒業に相応しい内容になったと思います。

今回、話の主軸になったのはクローン人間の是非でしたが、ぶっちゃけ、クローン人間そのものには題材としての意味はないと思います。科学技術とか生命倫理とかの対立構造になりませんでしたしね。クローン人間を取りあげた意味は、


誰もが想定していない状況に陥った時、最も優先されるべきものは何か?


という命題を突きつけるためでしょう。マイケル・サンデル教授ではありませんが、まさにアルティメット・チョイスです。杉下の回答は言わずもがなの真実ですが、神戸は違っていた。真実を暴くデメリットがメリットを凌駕する場合には、それに目を瞑るのもひとつの方法ではないのか。この考えはヘタをすると片山雛子や長谷川宗男のように、都合の悪いことを隠蔽する発想に繋がる危険があるのですが、今回の神戸は警察官としての地歩、否、残りの人生全てを引き換えにしても、胎児の出生の秘密を隠そうとしました。杉下に何を犠牲にしてでも追求するべき真実があるように、神戸にも自らの人生を棒に振ってでも隠そうとした真実があった。我執も欲得もない行動という点で、神戸が自らと同一の地平にいたからこそ、杉下も矛を収めたのではないでしょうか。


上記のように今回は真実の追究に対する杉下VS神戸のラストバトルですが、物語の終盤までは杉下のほうが悪役っぽい描かれ方をされていたのが印象に残っています。令状もなしに参考人の住居を勝手に探索する、拘留中の被疑者を小理屈を並べて勝手に連れ出す、そのとばっちりが全て米沢さんに向かうなど、数えあがればキリがありません。この辺は製作者の方も確信犯ですよね。杉下の正義の危うさをキチンを認識している&描いている。このタメがあったからこそ、神戸が反則技で勝ち取った正義、つまり、皆が得をするために歪められた真実のツケの描写が強烈に堪えるわけですよ。真摯で敬虔で篤い信仰心を持っていた被害者の為人が嘉神母子の供述で歪められそうになったり、結局、クローン人間は誕生しなかったために、神戸や嘉神博士の努力は全て無に帰したりと、真実を歪めたことで起こり得る最悪の状況に陥ってしまいました。前半~中盤で杉下の正義の危うさを描き、後半~終盤で神戸の正義の弊害を描く。非常にバランスの取れた内容になっていたと思います。

まぁ、非常に不謹慎なことをいうようですが、須賀茜がああいうことになった最大の原因は、


杉下右京「今、茜さんは何処ですか?」


月本幸子「今は裁判が早いから、ひょっとしたら、生まれるのは入ってからかも知れませんねぇ。大丈夫ですよ。ちゃんと出産の面倒も見てもらえるし、確か申請すれば一年間は新生児と一緒に過ごせる筈です」

須賀茜「本当に?」

月本幸子「勿論、塀の中でですけどね」


この女と一緒にしておいた所為としか思えない。何故、存在そのものが不幸フラグのハードラックウーマンに世話を任せたのか。今回の、というか神戸の人生最大の判断ミスじゃないのか、これ。

その余波を受けたのか、一度はラムネさんの権能(若しくは愛)で差しとめられた異動願が受理されてしまい、神戸も特命係を去ることに。しかも、異動先は劇中で神戸が『干されている』と揶揄した警察庁長官官房付。汚いな流石長谷川汚い。踏んだり蹴ったりの神戸ですが、しかし、これはこれでいい落とし処だと思いました。長谷川の措置は杉下の片腕をもぎ取る意趣返しであると同時に、杉下を黙らせた神戸の手腕を買ってのことでしょうから、表向きは兎も角、裏の仕事を任される可能性はあります。逆境にめげることなく、上層部の連中に貸しをつくり続ければ、何れ、第二の小野田公顕になることも夢じゃない。頑張れ、神戸。むっちゃ、頑張れ。


残りは雑感。


・嘉神博士&須賀茜


同情には値しますが、この結果はストーリーの展開上、仕方ないのかなと思いました。私個人はクローン技術は積極的に進展させるべきと思っていますが、何だかんだで両名とも、生命を軽く考え過ぎていたフシがある。特に須賀茜が『死んじゃおっかなぁ』と母親を脅迫する場面。彼女が軽視していた生命は他人ではなく、自分の生命なんですね。如何に非常事態とはいえ、ああいう場合に母親が娘に与えなければいけないのは技術ではなく、言葉と心だったんじゃないかと思います。


・前半のイタミン押しが半端ない


特命係の二人を刑事見習いと称したりとか、嘉神博士を連れ出されてブチぎれたりとか、中盤までは神戸ではなく、イタミンが卒業するんじゃないかと思いました。三代目相棒ってもしかして……いや、まさかね。


・season10を振り返って


先季よりは盛りあがりにかけた感は否めなかったですね。『8』は神戸が特命係に馴染むプロセス。『9』は『劇場版Ⅱ』との絡み。それぞれ、シーズンの柱がありましたが、今季は柱となるべき神戸の卒業に至る描写が不足していました。今回も今季の話に少しずつ、杉下と神戸の対立を積み重ねていけば、もっと面白くなったのに残念です。一応、今季のベスト5は以下の通り。


1.ラスト・ソング(第6話)


2.罪と罰(最終話)


3.ライフライン(第4話)


4.つきすぎている女(第12話)


5.贖罪(第1話)


っぱり、研ナオコさんの印象度は格が違いました。オサレなオトナのドラマという『相棒』の雰囲気が一番あった回でしたしね。これにて『相棒ten』の感想は終了。色々ありましたが、今季も楽しませて頂きました。スタッフ&キャストの皆さま、ありがとうございました。

そして、今更ながらですが、及川光博さん&神戸尊君、長い間お疲れ様でした。私は杉下&亀山よりも杉下VS神戸のほうが相棒に相応しい関係であったと思っています。


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