『へうげもの』第28話『古田織部とファイヤーズ』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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山上宗二(あれほど武人を嫌うておった私が、月代も剃らず、肩衣も纏わず、名物すら持たぬ時代遅れの連中なのに……武人との間に真の一座建立はあり得ぬと思うていた己が小さく見える。たとえ、名物がなくとも、新しき価値を、侘びを追い求める一体感と充実感が手に取るように……私は今まで、何と偏見に満ちておったのだ……)


いい場面です。

教える側が教えられる側になるというのは黄金のパターンですが、今回の宗二もまさにそれ。織部や秀吉のように中途半端にスレた相手ではなく、純粋に侘び数寄を欲する北条の人々に指南することで、実は己も過去も名物や宗匠の好みから脱していなかったことに気づく。宗二が川辺で水筒に水を入れる場面がありましたが、あれは無垢なる人々に真の侘び数寄をそそぐ己が役割を発見した&自らの心の渇きが癒される暗喩でしょう。北条家のおかげで真の侘び数寄に目覚めた宗二。しかし、その北条家を討伐せんと秀吉の軍勢が動き出します。次回の秀吉VS宗二の問答は必見!


古渓宗陳「三門には利休居士の木像と天井画をご用意しようと思うておりまする」

千利休「大仰に過ぎまする」


はい、宗匠の死亡フラグがたちました。

この古渓和尚のいう木像こそ、宗匠が増上慢となった証とされた件の木像です。ちなみに大徳寺は一休宗純が修行をした名刹。茶の湯の開祖である村田珠光が一休から禅を学んだことを考えると、非常に茶道とは縁の深い寺といえます。


細川忠興(秀忠殿は)蟻腰で染みの入った(茶杓)のほうを選びますかのう」

古田織部「案ずることが数寄心を養うのでござるよ。殊に秀忠さまは、この先、御家を担わん御方。数寄に明るくならば、徳川家も京で暮らしやすうなろうて」


何より、徳川家の御曹司に恩を売っておけば、色々と美味しいということですね。判ります。しかし、肝心の秀忠は蟻腰の茶杓をヘシ折っていました。気に入らないほうはあとで受け取りにくると織部がいっていましたから、礼儀としては、折った茶杓を返すわけにはいきません。織部の元へは普通の茶杓が戻されます。当然、織部は秀忠が蟻腰の茶杓のほうを選んだ=侘び数寄に理解のある人物と思うことになります。折れた茶杓は単に秀忠が父親似の侘び数寄に理解のない為人であることをしめしただけでなく、茶杓の選択一つで大名同士の矜持と駆け引きを描いたなかなかに深い場面でした。余談ですが、蟻越とは中節部分が括れて反った形状の茶杓のことです。


さて、今回は新生宗匠が奇抜なデザインを披露した東山の大仏殿と、宗匠の高弟である蒲生氏郷に関する逸話をひとつ。

大仏殿の建立にあたり、氏郷が担当したのは大仏を乗せる石垣の隅石の運搬でした。隅石といっても、一辺が一丈二、三尺(約四メートル!)という、まさに巨岩。これをエッチラオッチラと京の都の近くまで運搬してきた氏郷ですが、そこで工事の進捗状況を見計らった秀吉から一時待機の命令が届きます。しかし、口さがない京の都雀たちはこんな場所でヘタリ込むなんざ、蒲生さん家は情けねぇなぁという意味の狂歌を詠んで嘲笑しました。この狂歌に血の気の多さでは織豊政権でも一、二を争う戦国の瞬間湯沸器・蒲生氏郷がキレた。


蒲生氏郷「……ブッ潰してやる」


氏郷は秀吉の待機命令を完全に無視すると、家中の人間を総動員して隅石の運搬を再開しました。さぼった輩はぶった斬るという物騒な命令が下され、作業の途中で切れた草鞋の紐を結わえようとした男がその場で斬首。さらに突貫作業の余波で岩を結わえていた綱が切れてしまい、一名の尊い生命が喪われましたが、んなこたーどーでもいーとばかりに氏郷と愉快な仲間たちは京の入口である粟田口に姿を現したのです。

さぁ、ここからが氏郷のターン!

自分たちのことを腰抜けと罵った京の人々に復讐するべく、氏郷率いる蒲生軍団は隅石の運搬を名目に粟田口から現場である東山に向かって、道のあるなしに関わりなく、一直線に隅石を運び出したのです。果然、彼らの前にあった家屋は須らく倒壊。どう見ても『男塾名物直進行軍』です。本当にありがとうございました。おまけに京の人々への復讐を果たした氏郷は、それで気が晴れたのか、肝心の隅石を都の街中に置き捨てたまま、全員撤収してしまいました。この惨状を見た細川幽斎は氏郷のやりようを皮肉る歌を岩に貼りつけましたが、後日、その歌の横には氏郷からの反論の歌が掲げられる始末。


「そんなことしている暇があったら、現場に岩を運べよ!」


という京雀と秀吉の愚痴が聞こえてきそうなお話でした。

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