『へうげもの』第4話『カインド・オブ・ブラック』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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千宗易「何という黒……一切のムダがなく、黒であることすら主張せず、ただ、ここにある。器はここに極まりました。最早、唐、高麗名物など小賢しきもの……この黒茶碗は世のあらゆるものより優れております……」


御馬揃えに代表される信長の豪壮たる安土文化と、黒茶碗こそ至高の品と考える千宗易の侘び寂びの対立軸が明確になる回。原作では二回に跨るエピソードだが、これを一話にまとめたということは、製作者が上記の対立軸をキチンと理解している証左である。この点は高く評価したい。また、やたらとアングルの狂ったカット割りや、これでもかというほどに陰影に拘る作画は、これまでも述べてきた原作漫画の何処かブッ壊れたパースの代わりに、アニメに力を与えている。特に千宗易。下から舐めるような独特のカメラアングルなど、己の美意識を世に示したいという『業』の塊としての宗易が原作に近い怖さで描かれていた。こうした手法は是非、これからも続けて欲しい。

ただし、相変わらず、間が悪い。リズムがよくない。原作を大事にするあまり、淡々と作業をこなしているような筋運びになっている。盛りあげる場面とそうでない場面の区別がつきにくい。作画やカット割りはよくなってきているので、ほかに考えられる要素としては音響か。音楽や効果音の面でもメリハリのある演出を期待したい。


既存の唐、高麗名物に束縛されない、古き佳き心の象徴としての黒を好んだ千利休。

これは全くの偶然であるが、同時期の欧州は既存の宗教上の束縛から解き放たれ、現実をあるがままに捉えるという、往古のリアリズムへの回帰を掲げたルネッサンス芸術の爛熟期であった。妄想と知りつつも、既存の美術概念からの脱却と古き佳き心の象徴を掲げた利休とのシンクロニシティを感じずにはいられない。ついでながら、物事をあるがままに捉えるルネッサンス芸術のあとに開花したバロック芸術は、バロックという言葉通りに『歪』で過剰とも思える表現形態を好んだが、これも、利休亡きあとの茶道を継承した本作の主人公・古田織部の織部焼の奇抜で斬新な型や文様に通ずるものがある……と考えるのは些か、牽強付会に過ぎるか。


堅い話はこれまで。

今回、初登場の織田長益こと有楽斎。まさか、ダッチ……じゃない、磯部勉さんとは思わなかった。ナイスキャスティング。長益は色気のある声でなければならないが、どんなヤバイ状況からでも生き延びる強かな人物なのだから、ナヨナヨとした色気じゃいかんのだよな。その点、アメ車の光沢を思わせるゴツゴツとした色気のある磯部さんの声は適任である。相変わらず、キャスティングは素晴らしいなぁ。


さて、劇中では恙なく終了したように見えるこの御馬揃えだが、実は結構な事件が発生している。

ことの発端はあの戦国DQN四天王、東の鬼武蔵こと森長可。この鬼武蔵も今回の御馬揃えに参加したのだが、その準備の最中、同僚の毛利何某の一行の中に、昔、彼の元で悪事を働いて出奔した馬丁がいるのを見つけてしまった。気に喰わない相手は誰であろうと何処であろうとズンバラリンというのが鬼武蔵の生き方である。


当然、斬った。


そして、何事もなかったかのように(実際、鬼武蔵がやらかした数々の腹いせの人斬りも、彼にとっては腹が減ったから飯を喰う程度の認識でしかなかったに違いない)御馬揃えに参列したわけだが、勿論、これは問題になった。畏くも帝が天覧あそばすイベントを死穢の血で汚したのである。しかも、完全な私怨私闘ときたもんだ。常から鬼武蔵の傍若無人な振る舞いに腹を据えかねていた織田家の家臣たちは、彼への厳正なる処分(軽くて切腹、重くて斬首)を信長に求めたのだが、鬼武蔵の弟(蘭丸、坊丸、力丸)たちの【アッー!】にすっかりメロメロになっていた信長は、


信長「人を斬ったっていいじゃない。鬼武蔵だもの」


の一言で不問に付した。そのうえ、毛利何某の叔父が鬼武蔵への仇討ちを企んでいると聞くや、


信長「俺のお気に入りの鬼武蔵に小石ひとつでも投げてみやがれ。キサマの一族郎党皆殺しにしてやる」


と理不尽極まる恫喝混じりの沙汰を下している。そんなに蘭丸のアレの具合がよかったのか。一応、信長の言い分としては罪人を雇っているほうが悪いということだったらしいが、どう考えても理不尽だよね。劇中では光秀が外様にはつらく、親族たちには甘くなった信長の姿に漠然たる不安を覚える場面があったが、この逸話からも判るように、晩年の信長は賞罰人事の不公正が目に余るようになっていたのは事実である。これがロード・オブ・ホンノウジ・テンプルになるわけだが、それはまた、のちの話。


今回のタイトルの元ネタはこちら。シヴァ・セリム……じゃない、マイルス・デイヴィスの名盤。このネタが判った貴方は御手洗潔ファン。

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