精霊の守り人 第十七話『水車燃ゆ』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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「あんたが、どれだけその子に取り憑いたモノのことを知っているのかは判らないけど、宮には帰せないのっぴにならない事情があるんだ」(バルサ)


狩人の刃からバルサを守るために水車小屋に火を放ったトーヤ。それは危機を知らせる狼煙となって、バルサの生命を救います。かけがえのない夏の終わりを告げるように、燃え落ちる水車。

「バルサ姐さんのためなら、たとえ、火の中水の中」

というトーヤの口癖は伊達でも酔狂でもありませんでした。少年らしからぬ大胆な策と度胸に感じ入ったのか、ゼンは連れ帰って口を割らせようとする仲間を制し、その様子を見たバルサは心の中でトーヤに詫びを入れると、チャグムとタンダの元へと向かいます。これで物語は『承』から『転』へと完全に移行します。


まぁ、メインの話はトーヤの生命がけの活躍なんですが、私としては、むしろ、物語序盤のバルサとシュガの遣り取りの方に気が向きました。それは『如何にして、バルサとシュガを物別れさせるか』です。

バルサが狩人の罠を警戒して、シュガの言葉に応じなかったという要素も確かにあるでしょう。しかし、シュガの申し出が理に適ったものであることも確かです。チャグムに取り憑いた『卵』が妖の類でない以上、宮の刺客に生命が脅かされることはない。さらに、皇太子サグムが亡くなった現今、チャグムが宮に還るのは必然といってもいいでしょう。ですが、それでは物語は面白くなりません。それを回避するため、スタッフはバルサがシュガの申し出を拒絶する理由づけに奔走しています。その結果、バルサはチャグムの返還を求めるシュガに対して、


「だが断る」


の一点張りで押し通そうとします。そのための仕掛けを解明してみたいと思います。

第一にシュガが指摘したように、チャグムに対するバルサの愛着を描くことです。これは『承』の回、つまり、バルサとチャグムのオリジナルストーリーが、そのまま仕掛けになります。

第二にチャグムを守ることはバルサにとって、宮の都合や銭金で動かされる類のものではないことを明快にすることです。チャグムを守ることは、八人の魂を弔うための使命であり、二ノ妃と交した神聖な契約。事態はチャグムだけではなく、バルサの人生に関わるものであることを描いておかなければなりません。これは原作の設定とオリジナルストーリーによって、既に視聴者に知らしめています。

第三に『ラルンガ』の存在があります。『ラルンガ』の脅威を知るのはバルサたちだけ。このまま、手を拱いていれば、チャグムは『ラルンガ』に殺されてしまいます。その情報をカードに宮側と交渉するという手段もなくはないですが、バルサたちも『ラルンガ』の正体が掴めていない状態では、有効なカードにはなり得ません。チャグムを手放したくないための嘘と思われる可能性もある。そうなれば、バルサと隔離されたチャグムは『ラルンガ』の餌食になってしまうでしょう。こうした設定がある以上、バルサはチャグムを手放すわけにはいきません。


ですが、スタッフがバルサとシュガの交渉を決裂させるために仕掛けた最たるものは、もっと単純なことです。それは、

一度は刺客を放った宮側の人間であるシュガの口から、一言も謝罪の言葉を喋らせなかったことでしょう。

刺客を放ったのはシュガではありませんが、二ノ妃に代わって依頼を解消できるほどの人間なら、宮の代表と見做されて然るべきです。しかし、その宮の代表の口から出た言葉は、

「皇子の護衛、御苦労」

「罪を免じる」

「報償を与える」

「自分の立場を弁えよ」

「今はおまえの事情に構っていられる状況ではない」

etc.etc……。


ぷちっ。


「ツベコベツベコベと! 何故、素直にごめんなさいと言えんのだ!」


ぼこっ。


「ぼ、暴力はよくないっ」


シュガの言動が理に適っているにも拘わらず、それが身勝手な言い分に思えるのは、やはり、彼の台詞に明確な謝罪がないからでしょう。このため、共闘の余地がある筈のバルサとシュガが喧嘩別れすることこそ、当然の帰結と視聴者は感じます。シンプルな仕掛けですが、効果は絶大です。シュガは物語の都合上、憎まれ役を演ずる羽目になったわけですね。嗚呼、不憫な奴。

さて、狩人は兎も角、シュガの穏健で知性溢れる為人を知るチャグムにとっては、バルサの遣りようは乱暴に過ぎました。それに、兄・サグムの逝去よりも『のっぴきならない事情』とやらで宮に還ることを許されず、しかも、その内容を知らされないというのでは、不貞腐れたくもなるというもの。これ以降、チャグムは宮よりもバルサへの不信を露わにするようになります。バルサにしてみれば、事態が判然とするまでは余計な心配をかけたくないという親心なのでしょうが、それがチャグムに通じない以上、何の意味もありません。『夭折』の回の感想でも述べましたが『お互いの考えが正しくても、心が通じていなければ何も生み出さない』のです。完全に第二次反抗期に突入したチャグム。そして、次回の『いにしえの村』でチャグムを待ち受ける運命が明らかになります。


余談ながらシュガVSジンの第二ラウンド。

バルサにボコられ、チャグムを連れ去られたシュガを見つけたジン。

「皇子に逃げられただぁ? ったく、これだから背広組って奴ぁ、足手まといだってぇんだよ」

「QBK(急にバルサが来たので)」

「こっちのメンツは全員、皇子のヤサに向かってんだよ。このまま、女用心棒に高飛びされたら、こちとら、手も足も出ねぇぞ」

「(ショボーン)」

「使えねぇヤローだなテメーは。宿に戻って酒飲んで寝ちまえ」

て、感じだったな、うん。