「今の私がやるべきことは、ただ空を見上げて皇子の死を嘆くのではなく、皇子の尊い犠牲にも拘わらず、渇きの相の晴れぬ原因を突きとめることだったのだ」(シュガ)
ほぼ一話まるまるシュガのターンでした。
チャグムの死の衝撃から、いまだに立ち直ることができずにいるシュガ。出仕に遅れるわ、同僚に絡むわ、上司であるガカイに手をあげるわと、矢車サン(by仮面ライダーカブト)も真っ青のヤサグレ街道を驀進するシュガを救ったのは、チャグムの兄である第一皇子のサグムでした。サグムは『水妖祓い』と称して、チャグムの遺品を焼き捨てようとする宮の人々から、それらを集めて、密かに保管していたのです。シュガとチャグムとの絆を慮るサグムの心遣いに触発されたシュガは、冒頭にあげた台詞と共に『渇きの相』の実情を探る決意を固めます。サグム皇子、原作とは違って出来た御方。しかし、
「帝となったチャグム、そして、それに仕える聖導師シュガの姿というのも、見てみたかったな」
というサグムの言葉からは、蒲柳の質である己が永くないこと、そして、叶うことならば、弟であるチャグムに皇位継承権を譲りたかったという心情が読み取れるようです。ちなみに、サグムの回想でチャグムが戯れに傷つけてしまった鳥は恐らくナージ。このナージが物語のクライマックスで一番美味しい『モノ』を文字通り『さらって』いきます。嗚呼、こんなところにも伏線……。
都のあちこちで『渇きの相』の予兆を探るシュガ。第四話の感想で触れましたが、こうした物語の謎解きは本来、主人公サイドであるバルサやチャグムの役割です。実際、トロガイが『結び目』に赴いて、チャグムに取り憑いた卵の正体を探っていますが、それだけでは、物語は一本道の単調なものになりがちです。そこで、この作品ではシュガにフィールドワークと碑文解読という、トロガイとは違う方策で同じ謎にアプローチさせています。一つの謎を二つの視点から眺めることで、物語の立体感を形成するのが狙いでしょう。尤も、シュガに謎解きの役割を負わせる理由はそれだけにあらず。シュガが『渇きの相』の真相に到達するということは、チャグムが生きていることが証明されてしまうということです。そうなれば、帝は再び、チャグムの生命を狙ってくるでしょう。タンダから聞いた蟷螂の卵などの情報から、旱魃の可能性に思い至ったシュガに対して、タンダが警戒の表情を浮かべるという描写は、まさにシュガの探究心がチャグムの危難を招くことを象徴しています。平穏な生活を送るバルサたちに迫る追跡の存在をしめすことで物語の弛緩を防ぐことが、もう一つの狙いでしょう。『狩人』の襲撃と異なり、こちらは目に見えない分、余計に始末に悪いといえます。
今回はシュガの描写の合間合間に挟まる形でのバルサとチャグムの日常。初めての友達におっかなびっくり状態のチャグム。
「女手一つで男の子を育てるのと、男手一つで女の子を育てるのと、一体、どっちが大変だと思う?」
「所詮、男の子なんて、ほったらかしでも大きくなっていくものだからな」
などと余裕ぶっこいていたバルサとタンダですが、やはり、市井の暮らしに溶け込めないチャグムに多少は不安を感じている模様。そこで予備講習もなく、ぶっつけ本番で街の暮らしに放り込もうというバルサらしいスパルタ教育が、次回の『土と英雄』。兄のサグムは鉄のブランド販売という政策を発案するなど、為政者としての器量を窺わせましたが、果たして、弟のチャグムに『王』の資質はあるのか? それは次回のお楽しみ。