火星の隠された場所 4 |  ZEPHYR

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 作家として
 占星術研究家として
 家族を持つ一人の男として
 心の泉から溢れ出るものを書き綴っています。



「このカードは、『首はどこにあるか』という質問で引いたものです」
 那智の言葉に、二人の刑事はカードの画面を覗きこんだ。

 その背中越しに、紗与里も覗いた。鼻の下が長くなってしまう。

「しかし、カードはおそらく事件全体の構造を表現してくれています。最初の『吊るし』のカードの逆位置は、この場合、被害者と見ていいでしょう。ずばり犠牲者的なカード展開です。
 その下の『女帝』が見ているのは、『神の家』の逆位置。
『神の家』は天から火が降ってくるカードですが、逆位置になると当然、火は下からついています。これが放火されたということ」

 聞いていて、紗与里の顔から表情がなくなる。少し蒼ざめていたかもしれない。

「『神の家』の下にあるのは、『力』と『斎王』のカード。
 それはまあ、置いといて、上に戻ります。
『月』のカード、そして『星』のカードが並んでいます。

『月』には二つの建物と手前にプールか池か、そのようなものがある。この隣の『星』のカードも水辺で瓶の水を流している図になっていますが、うまい具合に『月』のカードとつながっているように見えます」

「たしかに」と言ったのは、吉川刑事だった。
 むっとして三崎が、肘で小突く。

「カードの質問は、『首がどこにあるか』です。この二枚はその落ち着く先を暗示しています。
 この場合は、ずばりどこか池か川か、貯水池とかプールとか、そのようなもののそば。
 そのそばに、この『星』の女性が、首を二つ、沈めたということ」

「なんで、そう言える?」と、三崎。

「この女性が持っている二つの瓶。これは二つの首の象徴です」

 ゾ――――ビックリマーク叫び

 ひぃっと、紗与里は小さなため息のようなものを漏らした。

「斎木さん……」
 那智の冷ややかな眼が見ていた。

「あッ、す、すみません」
 慌てて仕事に取り掛かろうとする。
「あ、あの、このデータをまるごと写せばいいんですか。け、けっこう、書き込みがありますけど」

「そうだね。よろしく頼む」

「はい……」
 冷や汗が滲んだのは、那智に仕事のことを言われたからではなく、彼のカード解説があまりにもリアルだったからだ。

「ちょっと待ってくれ。瓶は瓶であって、首じゃない」

「たしかに。ただ、カードというのはイマジネーションで解読するものなんですよ。その質問に対して、もっとも適切な表現を取るカードが出るという前提で解読する。他にそれを適切に表現するカードがなければ、これで暗示するしかないわけです。たとえば……」

 那智は机の引き出しから、きれいな布に包まれたカードを取り出した。
 解説しているものと同じカードだった。

「この中にはズバリ切られた首を表現するカードがあります。これです」
 恐ろしい絵柄のカードを彼は提示した。

 巨大な刃物を持った骸骨のカードだった。その足元の黒いところに、男女の首が転がっている。

「『13番』――一般的には『死神』と呼ばれるカードです。これがなぜ、この質問に対して出なかったのか? もっとも切られた首を表現するには適切なのに。なぜだと思いますか?」

「知るか」

「この『13番』のカードだと、切られた首はこの黒い土壌の上に転がっています。つまりこの絵だと、土のある山の中とかに遺棄されたか、あるいは埋められたというイメージが強くなる。
 首が水の中に沈められたのなら、この『13番』は適切ではないことになる」

 そういうふうに読むんだ……紗与里はエクセルのセルに、顧客の名前、日時、鑑定内容など、セルの項目を設置して、フォーマットを作る作業を行った。まったく機械的に。
 心ここにあらず。

 そのため何度もやり直した。

「チャートからは首は北東方位。そしてそこに池か何かあるのでは、と金井さんにお尋ねしたところ、金井さんはあるとお答えくださいました。
 鑑定からひと月、金井さんはその心当たりの池を探されたのでしょうね」

「…………」

 刑事二人は黙り込んでいた。
 彼らの常識からは、あまりにもかけ離れた論理、結論の出し方に、どのように反応していいか、わからなくなってしまったようだった。

「じつはチャートにも、池とか水に関する暗示があります」
 那智はPCを操作して、先ほどのホロスコープの画面を出した。
「この日の太陽のサビアンシンボル――まあ、星座の1度ずつに象徴的な言葉を与えたものだとお考えください。それは、これです」

『先祖の井戸にいるサマリアの女』

「この……ナンセンスな話を信じろと?」
 三崎は脚をひどく揺すっていた。

「あなたがたがこの話に対してできる態度は二つです」
 那智は平然と言った。
「僕の話を信じること。そしてもう一つは、逆に信じないこと。信じない場合、僕が金井さんに行った占いは、ただの偶然に当たったのだと、そのように理解することになる」

「勝手に決めるな。三つ目だってあるだろう」
 貧乏ゆすりがどんどんひどくなる。

「三つ目?」

「あんたが老夫婦を殺害し、その場所を知っていた。このホロなんたらも、このカードも、あんたが都合よく並べて解説してるんだ」

「カードは金井さんの目の前で引いていますので、勝手にこの構造を作ることは不可能なんだけどな。それに僕が犯人という説は、絶対にない」

「なぜ?」

 那智は立ち上がった。そして背後の金庫を開き、その中からあるものを取りだして、刑事の前に放った。
 猫のベガが、鼻先で嗅ぐ。
 パスポートだった。

「ご覧ください」
 
 刑事は那智の顔をにらみ、そしてそれを開いた。

「その年の2月から8月まで、僕は日本にいなかった。占星術の研究のため、イギリスへ行っていました。事件は4月に起きている」

 カランと鈴が鳴り、入り口のドアが開いた。
「あのー、10時から予約している佐藤ですが」

 主婦らしき女性だった。 

「裏付けはしっかり取ってください。さあ、お客様がいらっしゃいましたので、お引き取り下さい」

 刑事二人は出て行った。
 代わりに佐藤という女性が、椅子に腰かけた。

 那智の指示で、紗与里は女性に好きな飲み物を尋ね、また給湯室に入った。
 紅茶を用意しながら思った。

 ――もしかして、この男性(ひと)、すごい占い師はてなマーク 

 しかしこの事件はまだ終わらなかった。

 三日後、二人の刑事がまた訪ねてきたのだった。
 三崎は、今度は女性刑事を連れてきていた。



※この物語はフィクションです。



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