火星の隠された場所 3 |  ZEPHYR

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― the field for the study of astrology and original novels ―
 作家として
 占星術研究家として
 家族を持つ一人の男として
 心の泉から溢れ出るものを書き綴っています。

「占い。ハッ! 冗談もたいがいにして頂きたいですな」
 三崎刑事は威嚇するような剣呑な調子で言い、身を乗り出した。

 そのとたん、また机の上のベガが、「ファー」と怒気を発した。
 今にも引っかかれるのではないかと、刑事も思わず身を引く。

 たかが猫一匹のために、ずいぶんやりにくそうだった。あるいは猫が嫌いなのかもしれない。

「あなたが僕の話を信用できないのは、きわめて当たり前の反応ですね。チャートで説明をしたところで、たぶん理解もできないでしょうし」

 三崎はむっとなった。
「説明できると?」

「できますよ。なぜ、僕がそのあたりに首があるだろうと言ったかは」

「聞かせてもらえますか」

 三崎は四十代半ばだろう。がっしりとした体つきをしていて、いかにも武道とかやっていそうだった。負けん気も強いのだ。

 ふむ、と那智はうなずき、PCを操作して、そしてディスプレイを刑事に向けた。

「これは事件発生時のイベント・チャートです」

「イベント?」

「出来事が起きたときのホロスコープです」

「ホロスコープとは?」
 むきになったように質問する。

「地球を中心にして見た12星座と太陽系の天体の位置を表示したものです」

 三崎がその説明を理解したとは思えなかった。
 画面には、円形の図の中に赤や青の線が走っている。周辺に記号のようなものが散らばっていた。



「私が金井さんからお伺いしたところによると、犯行はこの日の夕方5時からくらいから翌日の2時半くらいの間だとか。それに間違いないですか」

「ああ、被害者の老夫婦が最後に目撃されたのが夕方の5時ごろで、この老夫婦の家が燃えていると119番通報があったのが、午前2時半ごろだからな」

「この9時間半のどこかで被害夫婦は殺されているのですが、その時刻は確定していません。とりあえず世間にこの事件が知られるきっかけとなった、2時半のものを作成しましたが、この図は私なりの判断で修正して、一応、18時半に設定しています。ここが犯行時刻と決まっているわけではありません」

 紗与里はずっと耳を傾けていたが、言っていることの半分くらいが理解できなかった。

「事件が起きたときのチャートからは様々なものが読み取れますが、じつはこの日のチャートには夕方であろうと、深夜であろうと、変わらぬある特徴があります」

「特徴?」

「ほら、ここ。ここに一つだけ星が離れているでしょう」

 三崎は眉間にしわを寄せ、画面に顔を近づけた(ちょっと猫の様子を気にしながら)。
 もう一人の吉川という刑事も、メガネを直しながら画面を見た。

「火星です。この時のチャートは、この火星だけがぽつんと離れた状態だったということです」

「それで?」

「これが切り離された首です。火星には頭部という意味がある」

 …………ドクロ
 聞いていて、紗与里は背筋に冷たいものを感じた。

「ほかにも火星は、暴力、刃物、火災なども暗示します。この事件は、老夫婦が殺害され、首を切断され、家が放火された。そして首は見つかっていない。そういう事件です。この事件の起きた日のチャートとしては、これは実に申し分ない」

 那智は腕組みをし、たんたんと解説している。

「申し分ない?」

「ええ、うまく事件を説明するチャートだということです」

 紗与里の耳にも、彼の発言はやや不謹慎に思えた。

「面白がっとるんですか、あんたは」
 三崎も同じように感じたらしい。

「面白いというか、興味深くチャートを見ているだけです」

「これは殺人事件なんだぞ。人が死んでいるんだぞ」

「あのね、刑事さん」
 那智はうんざりしたように言った。
「僕が面白いと感じているのは事件そのものじゃない。人が殺されたのも面白いとは思っていない。事件とチャートがうまくつながっていることが興味深いと言っているだけです」

「…………」

「続きを聞きたくはないですか」

 三崎はむっつりとしたまま、うなずいた。

「この火星はこの事件全体を物語ると同時に、首そのものの象徴です。ですから、僕はこの火星が首の隠された方位だと判断した」

「方位?」

「この場合、北東方位です。被害者の家から見て」

「首が出たのはたしかに北東です」
 と、吉川刑事が三崎に言った。

「北東方位にある池か貯水池かプールか、そのような水辺に埋めるか、水の中へ沈めるかしたのではないかと判断したのは、タロットカードです」

 那智はPC画面を操作し、記録してあったのであろう、タロットの写真を表示させた。

 それはあまりにも衝撃的な出来事を物語っていた。


※この物語はフィクションです。

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