私が個人的にミュージカルに引っ張り込んだ人間は三人います。
前述の援軍Hさん。
そして女座長となったUさん。
うちの娘。
援軍Hさんは制作会議が開かれ得いる最中はお腹が大きい状態。
そしてちょうど折良くというべきか。
立ち稽古が始まる頃には出産を終えていました。
こんにゃくで食いつないでいたというHさんは、執念というのか、出産後には妊娠以前よりも軽いくらいの体重になっていたという話。
即、練習に参加していました。
すでに役者としての経験を積んでいる彼女は、「最後の五匹」の中でも絶対にキモとなる匡子役を演じてもらいました。
Uさんはまだ25という年齢ながら、人のまとめ役。
「そろそろ、座長を決めておいた方がいいんじゃないか」
という提案が事務局から出たとき、その場にいた人間の視線が
「ザツ」という感じで彼女に集中(私を含む=おまえがやれ~と目で圧力をかけた)。
文句なしに彼女が座長に。
練習では誰かが不在者の代役をやることも多いのですが、どんな役、どんなシーンをやらせても瞬間的にいくつも演じ分けてみせる多彩さ、器用さ。
そしてM先生の意を受けて、あるいは多忙なM先生の補完をすべく、他の役者の演技を指導したり。
それ以外の事務的なこと、あるいは舞台監督がしなければならないようなことまで、彼女に負担がかかっていました。
創作現場でもっとも多忙で、もっとも精神的にもきつかったのが彼女。
佐和子役を完璧にやってもらいました。
我が家の娘は、Uさんの後輩でもあります(M先生の教え子として)。
最初は「ちょっとだけ出られたらそれでいい」とか言っておきながら、メインキャストに立候補。
「え、娘よ、そうだったの?」と驚かされました。
結局、希望していた香苗役は得られなかったけれど、M先生が意外に高く買ってくれ、佑子役で舞台に立てることに。
そして、この娘がいなければこのミュージカルは、今の形では完成しなかったかもしれない。
じつはあまり練習を見にもいけない私の代わりに、作者の意図を演出側に、そして演出側の要望を私に伝える役割を果たしてくれたのです。
私が思っていることが見事に舞台上に演出されていたことの中には、おそらく娘の働きがいくらかあると思われます。
それに、こんなこともありました。
基本、作家というのは一人で執筆作業を行います。
自分の思うことを自分の思うように書いていく。
そこに他者の介入する余地は、あまりない。
現場から様々な不都合や「こうしたい」という意図が伝わってくると、他の仕事も山積みされている状態で、私もイライラしてきて、あるとき「もうとにかく丸投げするから、どうでもいいように変えてくれればいい」と言ったことがあります。
しかし、娘は「このお話は父が書いたもので、その名前はずっと残るんだから、関わっていてほしい。あたしがちゃんと双方の意図を伝える役をするから」と……。
数度の改稿は、娘の協力なしではあり得なかった。
父としても、作家としても感謝しています。
佑二から佑子へ、性別が変わってしまい、ちとキャラが立ちにくかった佑子を、M先生の指導も含め、うまく演じてくれました。
そしてもう二人、私の縁でミュージカルに参加することになったのが、香苗役のIさんと主人公のお母さん役のMさん。
某大のミュージカル科を卒業しているIさんは、歌も踊りも演技も、すでに下地が十分にできていました。
彼女の参加は「最後の五匹」に大きな華となりました。
私の知人のKさんを通じてミュージカルのことを知り、一般公募の中から入ってきました。
Mさんはかつて私が鑑定を行ったことのある地元の女性で、お母さん役をやるには若すぎましたが、落ち着いた雰囲気があって、ほかの主要な女優たちとのかねあいもあり、お母さんになってしまった。
演劇経験もあり、見ていても安心できる演技でした。
「不思議なものだなあ」
人の縁がどこでつながるか。
前回の記事で書いた音楽部長でありながら役者をやらされる羽目になった男性Sさん。
なんとこのSさんの奥さんは、私の奥さんと先輩後輩の間柄で旧知であったり。
Sさんの奥さんも、歌唱で参加されました。
ここにはとくに私に関わりの深い人たちのことを書きましたが、実際には有能な女優さんたちが何人も集まってくれていました(やはり娘の先輩のMさんとかSさん等々)。
メインキャストからは漏れましたが、たぶん誰がどの役になっていたとしても、その人なりの色を反映させた良い舞台になったのではないかと思います。
女優ばかりではありません。
音楽監督のK先生は私の作詞したものばかりでなく、作中のシーンにいくつも効果的な音楽を作曲してくださいました。
そしてもすぐに作ってしまうところがすごい。しかもイメージに合っている!
「たてぬきの歌」の作曲をしてくださったNさん。
逃亡シーンで使われる曲を作ってくださったTさん。
これらの楽曲が、ミュージカルを圧倒的に盛り上げてくれたことは言うまでもなく、これもすべて女性パワー。
すごい。
女たちが作り上げたミュージカル。
そんな印象は、終わってこうして振り返ると、強まるばかりです。
続く。