最後の五匹・回想録7 |  ZEPHYR

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― the field for the study of astrology and original novels ―
 作家として
 占星術研究家として
 家族を持つ一人の男として
 心の泉から溢れ出るものを書き綴っています。

「最後の五匹」は基本的に男低女高の創作現場でした。


そんな中でも、数少ない男たちはがんばっていました。

特筆すべきは、音楽部長をなさっていたSさんでしょう。
本来は舞台に立つはずのないSさん。

しかし、あまりの男不足のためにかり出され、練習につきあわされているうちに、いつの間にやら「坂上田村麻呂」になっていたり、至る所でいいように引っ張り出され。

涙ぐましい努力をなさっていました。
演劇素人だったのに、殺陣の練習なども大変だったと思います。

阿久良王役のKさん。
鬼気迫るというべきか、本当に闇に落ちた人間の迫真の演技を見せてくれました。

扶美雄役のOさん。
シナリオにあるとおりの「善良なる主人公」としてのキャラを背負い、援軍Hさんの匡子役との対比を明瞭に際だたせてくれました。

大輔役のFくん。
この重いストーリーの中で、君がいてくれたから笑いがとれ、場になごみの風を持ち込むことができたように思います。

彼らを初めとして、男優陣も多忙な日常をやりくりして練習に参加してくれていました。
演劇をやっている人が多かったため、演出のM先生が本格参加してからは、急速に舞台が作られていったようです。
口で言うほどたやすくはなかったようですが。


そして舞台の大道具や小道具の準備をする男たち。

作り上げるものが明確に見えてからは、活動ぶりも変わったようです。

「こんなものが本当にできるんじゃろか」
そう言っていた人たちも、本番までにはきっちり舞台装置の数々を作ってきてくれました。

そう、目に見えてきたのですね。

自分たちが作るミュージカルが。

これはやはりM先生のお力が大きい。


ちなみに私も男ですが。

「先生も出演なさったらいいのに」
「娘さんと一緒に舞台に立つなんて、思い出になりますよ」

さんざん誘われました。

が、これは頑として拒みました。

自分の書いたシナリオです。
たとえば刑事のちょい役くらいなら務まったかもしれないのですが、私はどうしても練習に参加できない。
普段の仕事があるため。

それに、その場に入り込んでしまうと、客観的な見方ができなくなってしまう。

まして私は最後の最後まで、脚本の改編に追われていました。

練習が進んでいくと、その役者に合わせた演出も発生してきます。

M先生は元の台本に、かなり忠実に舞台作りをしてくださっていて、しかも台本には書かなかったけれど、こうしてほしいんだというようなこちらの意図を、演出上に反映させてくれているところも多かった。
これは本当に驚きでした。

M先生の能力、理解度の高さなのでしょうが、じつはこれにはもう一つ、別な要因もあったのです。


続く。


次回は女たちの戦い。