復讐するは冥王星にあり part.8 |  ZEPHYR

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 作家として
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 家族を持つ一人の男として

 心の泉から溢れ出るものを書き綴っています。

「3組はT先生とK先生みたいに、生徒指導の実績やキャリアのある先生が揃っているじゃありませんか。
 あたしが言いたいのは、そういう偏りをなくしてほしいってことなんです」
 中倉理恵が早口でまくし立てた。
「あまりにも不平等です。すぐに担当教諭を変えて下さい」

「まあまあ、この関口先生だって、前の学校でちゃんと実績を積んでこられていますから」
 山埼が穏やかに返す。

 中倉理恵は侮蔑的な眼差しを投げつけてきた。
「なんの実績だか」
 意味ありげな言い方をした。
「とてもそんなふうには見えませんわ。おどおどしていて自信もなさそうで」

「まあ、たしかにまだ若いので、そのようにお母さんの目には映るかも知れませんねえ。
 ただ、外見だけで判断されるのはどうでしょうか」

「あら、どう見えるのかって、重要じゃありません?
 だって、生徒だって、この先生を見るんですよ。
 そのときに頼りになりそうな先生だなあって思うのと、頼りなさそうな先生だなあって思うのとじゃ、信頼感が格段に違って来るじゃありません?」

 ああ言えばこう言う。
 どんなことを言っても、言葉尻を捉えて執拗に責め立ててくる。

 典型的なモンスターペアレントだ、と麻衣は思った。
 なにも言わなくていいと言われていたので、辛抱してこらえていたが、膝の上で握りしめた拳が震えそうだった。

「かりにも副担任なんてのになるのは、この関口先生がこの学校でちゃんとした信頼を得てからなさるべきですわ。
 それが常識じゃありません?」

「かならずしもそういうわけではありませんよ」

「だいたいあたしは、昨年も山埼先生がうちの子の担任でしたけど、いろいろと不満はあったんです。
 全部はいちいち言ってませんけど」

 嘘つけ、と思った。

「その山埼先生と能力もろくに分からない小娘が担任なんて、とても承諾できません」

 カチン、と来た。
 
「小娘って、どういう意味です」
 麻衣はつい口走っていた。

「ほら、ごらんなさい」
 中倉理恵は勝ち誇ったように言った。
「今のはわざと言ってみたんですよ。
 これくらいのことで感情的になってむきになる。
 人間として未熟な証拠ですわ」

 ますます麻衣は頭に血が上った。

 山埼が手を挙げて押さえなさいということを示さなければ、爆発していたことは間違いなかった。

「そうですねえ。
 教師も人間ですから、若い内は未熟なところもありますし、僕も反省すべきところはたくさんあるのだと思います。
 中倉さん、そうは言っても、まだ先生としての関口先生のことは、なにも保護者の方も生徒さんたちも見ていないのと同じですし。

 お子さんたちにとって、もっといい先生になるように努力致しますから」

 それからさらに一時間、中倉理恵とのやりとりは続いた。
 いや、続けさせられた、というほうが正確である。

 山埼がいい加減なところで切り上げる方向へ誘導しても、かならず話を蒸し返すのだ。

 ようやく彼女が校舎を出て行った後、麻衣はぐったり疲れていた。
 これで二度目だった。
 昨日に続き、今日も。

 昨日は教頭と山埼が対応してくれたのだが、どんな話だったのかは麻衣も聞いている。
 内容は今日と同じだ。

「まず相手の言うことを一度、受け入れること。同意を示してやることが大事なんです」
 山埼が後で言った。
「それによって、相手は気持ちが和らぐ。最初から拒否に出ては、相手はさらにかさにかかって来るようになる。
 これはよく覚えておいて下さい」

「でも、とても納得できません」
 麻衣は憤りにぴりぴりしながら言った。
「あまりにも理不尽です」

「感情的になると、事態はかならず悪くなります。
 どんなときでも、まず受けに回ることです」

 自分にはできそうもなかった。
 山埼が一緒でなければ、絶対に感情で返していただろう。

 これからこのようなことがずっと続くのかと思うと、それだけで気力がなくなり、仕事への意欲もしぼんでしまう気がした。


 それから毎週のように、かならず中倉理恵は学校へ抗議にやってきた。

 麻衣の自宅へも電話をかけてくるようになった。

 電話が鳴るたびに、どきっとして不安に駆られた。

「教育委員会へ訴えることにしました。
 賛同してくる保護者の方に、今、署名を集めて回っていますから」

 ほとんど脅迫だった。

 体調がおかしくなり、本当にうつにでもなってしまうのではないかと、自分で心配になってきた。

 夏を待たず、新しい職場での仕事の意欲など、すっかりなくなってしまった。
 学校へ行くのもいやだった。

≪こんな学校、辞めてしまおうか≫

 そんな考えが、ぐるぐる頭を巡った。
 その一方で、このまま泣き寝入りすることだけはしたくないとも思った。

 やり返したい、という思いが、心の奥底でたぎっていた。


この物語はフィクションです。