下手、いつまでも下手ならず |  ZEPHYR

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ゼファー 
― the field for the study of astrology and original novels ―
 作家として
 占星術研究家として
 家族を持つ一人の男として
 心の泉から溢れ出るものを書き綴っています。

「才能がいっぱいですね」
というようなことを、最近よく言われます。小説が書けるというだけで、世間的には大変な才能に思えるでしょうし、その上、占星術を駆使して人の運勢を読み解き、大学の先生をし、ホテルのレストランでサービスをし、バーでカクテルまで作っている(おまけに気功までできる)となれば、そういう言われ方をされてしまうのも当然かなという気はしますが、本人にとってみれば、才能なんて呼べるものは一つもありません。
結構、心外だったりします。
というのは、私はこれらのことを才能があるからやっている、やれているわけではなくて、どれも自分が好きでやってきて、だからこそ身につけてきたものだからです(気功は自然発生的かな? でも、自ら発しようとしたことは確かです)。
つまり客観的には、努力のたまもののはずなのです。

小説が好き。たくさん読書をする。いずれ自分も書くようになる。が、下手くそでも下手くそでも、書き続けてきました。
これが何より重要なのです。
占星術も好きで始め、魅力に取り憑かれました。
しかし、12星座の意味、10惑星の意味、12ハウスの意味、アスペクト(座相=惑星間の角度)の意味……こういったことを憶えるだけでも大変です。
しかし、夢中でやり続け、身につけました。
大学の先生は、今なお自分自身が勉強中です。1回の講義の度に、反省点があります。
どうすれば生徒たちが耳を傾けてくれる講義ができるのか、今日はどこにポイントを絞ればいいのか、最終的に何を教えるのか。
ホテル業界に入り、最初はとまどってばかりでした。
しかし、自分のしたサービスに対して「ありがとう」と言ってもらえる。この喜びは、独特のものです。そのために何をしなければならないか。何を考えなければならないか。
フランス料理の食材や調理法の数々(今だって全体のごくわずかな知識しかありませんが)、覚えることはたくさんありました。
カクテルだって、最初からシェーカーがうまく振れていたわけではありません。何百回も練習し、マドラーを回すのだって、挟んだ指の皮がむけるほど練習しました。

何事も1回1回の作業が大事で、その積み重ねが大事です。
それなくして、向上もありません。
才能は最初から存在するものではありません。長い積み重ねの先に、自然と生まれるものです。

自分には才能がない、と嘆く人がいます。
どうなのでしょう?
そりゃ、なにもしなかったらないでしょう。

でも、本当はちょっと違うような気もします。
私がそうであったように、好きなもの、やりたいこと、その中に才能の芽が必ずあるように思えます。
やりたいこともない、好きなこともない。
そう感じる人もいるかも知れません。

そんな人はまず自分を好きになって下さい。
自分の良いところを見つけて下さい。
人に親切だとか、優しいとか、よく気が付くとか、アイディアが豊富だとか、勤勉だとか。
そんな自分を愛して下さい。
その先に、またきっと見えてくるものがあります。

私の好きな言葉、座右の銘は、家内のお父さんが書をされているのですが、あるとき額に入れて下さった次の言葉です。
「下手、いつまでも下手ならず」――坂口安吾。