7月最初の講義は、2004年に大阪で実施されたミステリー・イベントで使った「オルフェウスのダンジョン」を題材に、生徒たちにクイズを出した。
つまり自分がイベントで使ったミステリーを解説し、「さあ、犯人を当てろ!」という内容である。
大阪では3万5千人に配布され、正解率は(犯人の名前だけでなく、その根拠まで明確に解答したもの)非常に低かった超難問である。
いってみればこれが私の講義での「試験」みたいなものなのだが、通常の試験と異なるのは暗記力が試されるのではなく、推理力が試されるということだ。
考えないと解けない。
そして解けたときの喜びがとても大きい。
もし150人ほどの受講生の中で、このミステリーが解けた者がいたなら、彼(彼女かもしれないが)は名探偵である。
ところで先日、某作家の本格ものを読了した。
謎も謎解きも申し分なかったが、読後に何も残らなかった。
なんだかよく出来た公式を解説されたみたいで、登場人物たちにも共感を覚えられなかった。
横山秀夫さんの「顔 FACE」を講義で取り上げていたことは、このブログでも書いていることだが、本当にこれは「良書」で、人物がすべて生きている。脇役端役に至るまで。
自分が2年前に書いた「オルフェウス」は、そういった意味でもやはり自分自身が好む小説の書き方をしている。たった100枚の小説なのに、人物造形にかなり力を注いでいるのだ。
作家というのは自分の創作スタンスや信念があって仕事をしているので、他のやり方を一概には否定できない。そんなことをするのは愚かだ。
道は一つではないのだ。
けれどやはり自分が歩みたい道というのはある。
某作家の作品と「オルフェウス」、そして「顔 FACE」。
やはり自分の前に開けている道は誤りようもなく、ちゃんとそこにあるのだった。