歌。
かつて
「うたの国」
という名前の脚本を書こうと思っていた。
それは、徴兵された若い雑兵たちが「侍」に憧れ
「道灌」を目標に歌を学ぶ、という内容だった。
彼らは武州松山城に出入りする。
そこにはまだ扇谷上杉家の残党が残っていた。
難波田弾正もいたし、若き太田資正もいたのである。
難波田や資正の持つ「武士」のたしなみは本物だっただろう。
雑兵たちは当主上杉朝定から直に声を掛けられ感激もする。
そして本物の侍になろうと精進するのである。
彼らがテキストとして使ったのが「百人一首だった」
とそんな空想をしていた。
そして彼らは、難波田弾正の「末の松山」の歌合戦で初陣する。
難波田弾正が口ずさんだ「末の松山浪も越えなむ」
を大声で何度も何度も唱した。
(スピーカーもないその当時、雑兵たちがそうしなければ相手に届くことはないだろう)