つなぐ。⑧ 第55回全国ママさんバレーボール大会編

2024年8月1日~4日 滋賀県大津市 滋賀ダイハツアリーナ 

 

白いボールを追いかけて

リベンジの、初めての、それぞれの舞台に立って

 

力強いスパイクでポイントを重ねた田中さん(四福同好会)の笑顔

©プロフォートサニー

 

 このままでは終われないから

逆転勝ちを、左腕でつかみ取った。

全部、私に上げて――。そうタイムアウトのときにセッターに要求した通り。マッチポイントのトスは、何度はね返されても、自分に向けて上がってきた。渾身の力を込めて左腕を振り切る。エースの意地が乗り移ったボールが、相手コートに跳ねた。

 昨年の愛・チャンピオンズリーグ(旧冬季大会)の決勝で奈良に敗れて、無念のブロック2位に終わった岡山県の四福同好会。左利きのエース田中麻実さん(41)⑤ら主力メンバーはそれを最後の全国大会と決めていたが、負けたままでは終われないと、今回の全国大会を目指した。

県を勝ち抜いてリベンジの舞台を踏むと、予選リーグは3勝で通過。埼玉との決勝に進んだ。大会に入ってセットによって波があり、第1セットは低調。第2セットに入ってオープントスから平行トスに変えると、攻めが機能し始めた。第3セットはサービスで序盤に貯めたリードを守り、最後はエースの一撃。躍動感のあるスパイクで大会に花を添えた田中さんは、きりっとした笑顔だった。

「リベンジをしたいと思っていた全員の思いが逆転につながった。また次の新しい目標ができるかも」

 蝉時雨が降る山あいのアリーナで生まれた、この日3つ目の逆転劇だった。

 

倉敷市で約半世紀にわたって活動を続ける四福同好会

©プロフォートサニー

 

第55回全国ママさんバレーボール大会(全国ママさんバレーボール連盟・朝日新聞社主催)は大津市のダイハツアリーナ滋賀で8月1日の開会式に続いて3日間の競技を行った。参加31チームが6組に分かれて総当たりのリーグ戦を消化。各組1位が最終日の決勝3試合に勝ち上がり、3つの優勝チームを決める。

 第1試合でまず守り合いを制したのは、予選リーグを4勝で通過したおもだか(山形市)だ。半世紀の歴史を持つ県内の古豪だが、全国大会4回目で初の決勝。今年に入ってこの大会のために新チームを組んだ足立和子監督は「立ち上げたばかりのチームでここまで来られるとは。若い2人の力は大きいけど、うちのチームはレシーブが基本。全国大会に来てチームをまとめてくれたキャプテンの存在も大きい」と主将の月田千香子さんをねぎらった。

 

菅原さん(赤色ユニフォームの右から3人目)のトスを受けて鋭いスパイクを放つ阿部さん①

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ママさんバレーの楽しさふくらむ

予選リーグから勢いをもたらしたのは、監督がいう若い2人だった。攻撃を担う21歳コンビの阿部純佳さん①と菅原侑衣さん②は、山形市立商高バレー部の先輩後輩で、インターハイ8強の実績を持つ。2人はこの春に9人でのママさんバレーボールを始めたばかり。ルールの違いに最初は戸惑いばかりだったが、つなぐバレーの魅力に徐々に目覚めた。6人制のチームが数少ない県の事情があってのママさんバレー入りだが、年齢を超えたまとまりでボールを追う楽しさが日に日にふくらむ。

2人の強力サーブが、初優勝に向けての流れをつくった。第1セットを落として迎えた第2セット、菅原さんがサービスエースでポイントを重ねれば、第3セットは阿部さんの9連続ポイントで粘りに粘っていた京都の堅守を崩した。今回、阿部さんを誘ってママさんバレーの世界に飛び込み、力強いトスさばきで快進撃を起こした菅原さんは「先輩たちから、これからはおもだかを背負ってくれと、言われています」と笑った。

 

山形県勢で2回目のブロック優勝を果たしたおもだか。チーム名は水生植物に由来する

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連盟登録制度を個人登録という原点に戻した今年は、「本大会出場は1回まで」という全国大会の原則を外して2年目になる。メンバー中3人以上の初出場選手がいるという条件も取り払われた上、複数回出場も認めて出場の間口が広がった。

各府県代表は予選もしくは推薦。希望があれば同府県からの複数エントリーも認める。時代に即した変化の証しで、目に見えない府県境をまたいだシームレスなチーム編成が実現する日も遠くないのかもしれない。

 そのトレンドに乗って各チームに20代選手が増え、年齢層も広がっている。

年齢順に背番号を決めたおもだかの場合は、1番の21歳から30代、40代ときて、最年長が68歳。12番の大鳥栄美子さんはベンチで士気を上げ、うちわで仲間をあおいで涼をもたらした。

チーム内で年齢を超えて助け合い、補い合うと同時に、試合では20代選手のアタックを50代選手が経験で止めるシーンが起こり得るのがママさんバレー。こんなスポーツは他にない。軽々に使われがちなリスペクトという言葉の本質はこういうものではないか。

 

経験豊かな選手をそろえるKAYOは、第1セットを奪われても冷静な試合運びを見せた。⑫が浜野さん

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第2試合は岐阜の名門KAYOクラブが、のじぎく(兵庫1)を逆転。第2セット以降、得意のネットプレーで相手のリズムを崩した。昨年の全国、愛・チャンピオンズリーグに出場したメンバーに、4月から加わったのが大型アタッカーの浜野奈那さん(28)。友人の母親で顔見知りの副監督に、スーパーマーケットで出会ったのが始まり。「バレーまたやらん?」と誘われて、なじみのないママさんバレーのチームに加わった。

最初は遠慮がちだったが、すぐにラリーが続くママさんバレーの楽しさに目覚めた。「みんな優しいけど、言うべきことは言ってくれるので、やりやすいです」。ポイントで強打を繰り出して、逆転勝ちに貢献した。安江喜代子監督は「全国に何度でも出られるというのは、モチベーションになる。若い選手を加えながら、伝統を継いでいきたい」と話した。

 

岐阜高の定時制「華陽高校」のOGで組んだチームが原点。今年は「愛・チャンピオンズリーグ」にも出る予定

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親子2代3人がコートに

 門戸が広がり、参加チームも多彩になった。

 秋田から空路で大阪伊丹空港に降り立って滋賀入りしたのしろクラブは、1983年の第14回以来、2回目の全国大会出場。監督でセッターの松森千恵美さん(59)⑩が福島県から秋田に嫁いだ平成初期よりさらに前で、当時を知る関係者は、もういない。事実上の初出場だ。

今大会出場のきっかけは、青森の大学に進んでそのまま就職していた松森家の三女・千那さんがこの春に地元の能代市にUターンしたこと。高校時代にリベロで県大会3位になった千那さんはチームに加わるなり、「全国大会に行ってみたい」と母親に訴えた。いい機会かもしれないとチームメート全員の意思を確認して、県の推薦出場枠にエントリーした。

千恵美さんは派遣審判で全国舞台の経験があるが、選手たちは全員が初舞台。天井が高い大型アリーナに目を奪われるうちに第1戦が始まる。兵庫2を相手に返したポイントは計14点。2試合目の岐阜戦も、2セットとも一桁ポイントに終わった。重いサーブと高速スパイクをバックセンターで受け続けた千那さんの華奢な左腕に青あざがあった。「普段やっている体育館と違うので、距離感がつかみにくいというのもありますけど…。あっという間に終わってしまいました」

千那さんの左隣バックレフトでボールを受け続けたのが、8歳年上の姉・浅野南美さん。中学高校の6年間はセッター。8年前に結婚してからチームに加わった。姉妹で声をかけあい、相手の攻めに応じて微妙にポジションを変えながら、セッターの母親に少しでも好球を返そうと、姿勢を低くして待ち構える。「初めての全国大会を楽しみたいと思ってきたので、できるだけ長く試合をしたい」と浅野さんが話して迎えた2日目の第3戦は、広島を相手に2セットとも10ポイントをマークした。

 

松森千恵美さん⑩と南美さん⑪と千那さん⑫姉妹

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迎えた強豪・愛知県との最終戦。防戦の流れは変わらなかったが、第2セットは初戦から強打を狙ってネットにかけることも多かった千那さんがサービスエースを決めるなどして14得点を記録した。「予選があるころは決勝で負けて全国に出られませんでした。もう少し若い時に出たかったけど、その分、娘2人と来られたのはよかった」と千恵美さん。そんな頼りがいのある母親の背中を見ながら、姉妹はずっとママさんバレーを続けていきたいと口をそろえた。

 

メダリストに負けない笑顔

おとなり岐阜県の各務原市から参加した那珂一クラブも全国初体験。初日は競り合いを落として2敗。ことぶき年代では現役の河崎かず子監督が「うちも悪いチームではないけれど、サーブの威力が県と違う」と話せば、バックセンターでボールを拾い続けたキャプテンの藤井真名美さん③は、「コーチからは相手の特徴を早くつかんでプレーするようにと言われているのに、できなかった。ふだんは出ないようなミスが出てしまって」と首をひねった。

県レベルならば隙間があるブロックをなかなか破れない。内心そう驚いていたのは、レフトアタッカーの林真実さん⑮。チーム最年少の26歳で、2歳半の子どもは母親や家族が面倒を見てくれるのでバレーに打ち込めるという。銀色のショートカットがクールだ。

 

抜群のバネを持つ林さん⑮は試合ごとに強打を繰り出した

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背丈はさほどなく運動神経のかたまりといった印象だが、それもそのはず、高校時代のスポーツテストは全国でもトップクラス。右ひざに大けがを負い、中学の2年間でバレーボールをやめざるを得なかったが、高校で転向したフェンシングでは、大学時代に全国で10傑に入ろうかという実力だった。

地元の教習所で働くかたわら、入念なリハビリを経て右ひざは回復。2年前に地元のバレーチームに加入し、県内の大会で目を留めた那珂一のスタッフから誘われた。この春にチームに加わり、得点源に。「フェンシングは孤独な競技だったので、もう一度バレーできて楽しい。ボールが落ちたら終わりのラリーを仲間とつなぐバレーが自分には合っているんです」

 2日目は、前日に審判をしながら観察してつかんだ対戦相手の情報を共有して臨んだ。三重との第3戦は林さんの強打でリズムをつかんで先取。第2セットは中盤の競り合いを、大会前にネイルをチームカラーのブルーにして臨んだ内木優子さん⑯のクイックなどで制した。

第4戦は、「全国のサーブはすごいけど、打ち負けたくない」と話していた林さんの豪快なジャンピングサーブも決まり、2-0で和歌山を下した。持ち味の粘りから多彩な攻撃を繰り出しての連勝に、藤井さんは「いい気持ちで帰れます。初めての全国は楽しかった」。最後に自分たちのバレーができたという自信は、真夏の舞台に立って得た財産になったに違いない。

前日の狐につままれたような表情が一変、全員がオリンピックのメダリストにも負けない、いい笑顔だった。

 

取材・文/伊東武彦

 

 

2敗から2勝した那珂一。右から3人目がキャプテンの藤井さん

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◇第55回全国ママさんバレーボール大会 決勝結果

第1試合 山形(おもだか)2(19-21、21-18、21-10)1京都(修学院)

第2試合 岐阜(KAYOクラブ)2(13-21、21-12、21-17)1兵庫(のじぎく)

第3試合 岡山(四福同好会)2(19-21、21-8、21-12)1埼玉(上青木クラブ)