2年前の春、大学に入学した。

これから始まる生活に希望と不安を抱きながら、ボクの大学生活がスタートした。

サークルは入学前から落研(お笑いサークル)に入ろうと決めていた。

高校の時、お笑いに目覚め、何度か地下ライブに出演していたことがあったからだ。


ボク以外に同級生で所属した子も5人くらいいた。

最初は電話をしたり飯を食いに行ったりと仲が良かった。



「コロナ禍で今は前みたいに活動できてないんだよね」



落研の代表から言われた。

以前に行われていた月イチ定期ライブも新歓も夏のBBQも未知のウイルスに全て奪われた。

そして気づいたら1年が経過していた。その年、落研でまともに活動したのは1回だけだった。





2年生になった。4年生のサークル代表から

「zenchan副代表任せていい?」

と言われた。正直めんどくさかったんでやりたくなかったが、断れなかった。代表は一個上の先輩になった。


新代表とサイゼで話し合いをし、これからの活動をざっくり決めた。これから本格的に始まるサークルが楽しみで仕方がなかった。



が、その活動は白紙になった。代表が変なやつだった。

会って話す時はめちゃめちゃ良いのだが、LINEの返信は1週間に一回、仕事も何もしない。サークルの大事な仕事はボクに全部回ってくる。ボクは限界だった。


そんな中

その変な代表がついに失踪し、繰り上がりでボクが代表になった。

それが去年の6月。ぐちゃぐちゃになりその頃同期は全員サークルを辞め、ついにボク1人になっていた。


人がいないと活動できないと思い、Twitterで何度も宣伝した。

そしたらDMで

「サークルに入会したいのですが、」

と一個下の子からきた。その子とボクの2人だけのお笑いサークル。


でも、去年は多忙すぎてサークルに費やす時間なんてなかった。

大学支援課がすごい落研に協力してくれ、何度も気にかけてくれた。学園祭の時も

「お前高校の時芸人やってたんだろ?10分時間あるから1人でもなんかやれよ」

と1番気にかけてくれる支援課のボスの仲良いおっちゃんが言ってくれた。これが学園祭一週間前。


ボクはもう面倒臭いしサークル自体廃部にしようかと思っていた。でも半強制的に出ることになってしまった。

急いで授業中にネタを書き下ろし、高校時代にやって一番ウケたネタを今風にちょっと修正し、2個上の先輩に協力してもらい、10分間でネタをやった。が、そのクオリティはダメダメだった。それはそう。ネタ合わせも2回くらいしかしてないのだから。


顧問の先生に

「宣伝になるといいね!」

と言われたが、

そんなサークル、誰も入ろうと思う訳もなく、学園祭は終わった。


そしてサークルに関して真っ黒に塗りつぶされた2年生が終わった。



3年生になった。

4月、用があり学生支援課を訪れたらおっちゃんから

「お前、落研でサークル紹介でろ。MCもやれ!」

と言われた。気乗りしなかったが、その時は返事をウヤムヤにして後にした。


その日の夜、一個下の落研の後輩から突然LINEが来た。もうやめたのかと思っていたのでびっくりした。

「先輩!落研に興味ある後輩がいるのですが、」


いやいやこんなサークル、もう潰す予定だったんだけど。

お笑いに興味なんて持たなくてもいいよもう。

もう足洗ったんだわ。


そんなことを考えていたが、そういえばサークル紹介出ろっておっちゃんが言ってたことを思い出し、一応出るか聞いた。




「今日支援課のおっちゃんから新入生700人くらい来るサークル紹介でMCとネタやれって言われたんだけど出る??」


「やりたいです!ネタも書いてます!!」








…マジで?やるの?てかネタ書いてるの?



そして時間を作って集まった。





「先輩!このネタ僕面白いと思うんですけどやりたいっす!あとショートコント2本考えてます!これやりましょう!」






彼はボロッボロで超汚い「お笑い用」と表紙に書いたノートをめくり、古文書みたいに何が書いてあるか分からない文章を指さしてそう言った。



止まっていた時間がまた動きだした。



胸の奥が熱く燃えたぎっていたのがわかった。この感覚、この熱、この滾り、この高鳴り。なんでこんな子を1年放置していたのか。




「よし!それやろう!!どんな感じどんな感じ?これ何書いてあるかわかんねぇよ笑」


「あ、それはですね病院のコントで〜〜〜」





ショートコントをボクも1本考え、本番は計4本ネタをやることに。

空きコマに人の目を気にせず、大学の広場で何度もネタ合わせを重ねた。友達を呼び出し、見てもらってアドバイスを貰ったり、撮影し何度も見返し、面白くなるように一生懸命努力した。


中学時代、空き教室でサンドウィッチマンのネタをコピーして友達とやったこと。


高校時代、先輩とコンビを組んで自分たちでネタを書き、昼休みに廊下で何度もネタ合わせをし、地下ライブに出たこと。


全部が長い一本道で繋がっていた。










本番当日。

会場はキャパ800人の大講堂。パッと見700はいる。が、不思議と緊張はしなかった。今までの地下での経験がここでいきてきたのだ。




時間は7分。各団体は2分で守っているが、支援課のおっちゃんに頼み込み、特別に7分にしてくれた。本田もびっくり。

リハーサルもみんな1回なのにボクらだけ3回くらいした。

落研のためにみんなが協力し、動いてくれた。



MC。ボケ部分だけ軽く台本を書き、あとはアドリブだ。



舞台袖でコンサート運営団体の女の子が

「落研さん、頑張ってください」

と小声でいい、相方とグータッチをし、

ボクらは光で照らされた選ばれた人しか立つことができない舞台へ飛び出した。



「どうもー!!〜〜〜〜〜」




初めのひとボケでクスクスと笑い声が聞こえた。

良い感じだ。


「それでは次は○○サークルさん、○○サークルさん、〜〜〜です!どうぞ!」


一度はける。場があったまってきていたのがわかった。

コレはいける。確信した。



そしてボクらのサークル紹介になった。





サンパチが舞台真ん中で照らされ、キラキラ輝いている。ボクらはそこに駆け込み、約4分間、自分以外の誰かになる。


「よし、いけ!」


相方の背中を叩き、出ていく。





「どうもー!!!!!〜〜〜〜こんにちはー!!!〜〜〜〜」











掴みコントで新入生の笑い声が会場に響き渡っていた。











そしてボクらは無事やり切った。






大講堂から出てビラ配りをする時、出待ちをしてくれていた子がいた。



「ノーガードさん!?私すごいファンになりました!!これからも頑張ってください!!ライブもあったら見に行きます!」


「ノーガードですね、名前覚えました!」


「私お笑い大好きなんで、これからも応援しています!!」






大講堂での紹介の後、教室を借りて説明会をやった。

どうせ2人くらいしか来ないんだろーなーって思って何も計画していなかったが20人も来て焦った。

とりあえず前日に自腹で買ったお菓子をみんなに配り、テキトーに談笑した。

その中でサークルに確定ではいる子は10人くらいいた。

サークル紹介は大成功に終わった。






そして昨日、縁があって仲良くさせてもらっているプロの先輩芸人とご飯を食べに行く予定があったため、サークルの子も誘って一緒に行った。



楽しい食事会で、後輩たちも

「俺このサークル入ってよかったっす!」

と言ってくれた。





人数が集まったんで、これからの活動はまず新歓ライブを企画したいと思っている。大喜利大会、大学M1グランプリなんてのもいいなーとふわふわ考えている。






長かった一本道は希望で満ちた光に繋がっていた。

2年かかってボクはようやくスタートラインに立った。

ここが俺たちの幕開け。