確かに日本は少子高齢化の道を歩んでいます。私は科学者ですからデータも見ますが、物事を考えるときそこを出発点にしません。人間は生きもので、自然の一部です。その「生きものとしての感覚」から考えるのが私のやり方です。
おいしいものを食べて、健康で、心からの笑顔がほしい。植物や動物を育てたり、愛でたりするのが好き。そんなごくごく普通の感覚(私は「普通の女の子の感覚」と呼んでいます)を老若男女みんなが持って、生きる楽しさや小さな幸せを積み重ねていけば、おのずと社会は変わると思います。
最近は効率最優先で、人間も、機械やロボットのようにとらえられがちです。機械は均質で同じであることが良しとされますが、生きることは、結果ではなくプロセス。効率の悪さや面倒なこと、嫌なこと、くだらないことも含めて、毎日の暮らしを大切にすることが生きることです。生きものは、同じ遺伝子を持っていても、プロセスによって結果がまったく違う。それが生物の多様性で、すべての生きものは宇宙にたったひとつだけ。すばらしいことなのです。
私が思う先進国の定義は3つあって、まずは一極集中でないこと。それから、食料を自分たちで作ること。だれでも気軽にスポーツや文化などを楽しめること。豊かになったはずの今の日本に、それらがあるでしょうか。
お金や技術の進歩ももちろん大切ですが、人間がいちばん大事。日本は戦後、ひたすら「成長」を軸に進んできましたが、これからは「分配」と「成熟」をキーワードに、「生きものとしての感覚」で、本気で社会のしくみを考え直す時期に来ているのではないでしょうか。
生きものが誕生して38億年です。たかだか50年や100年で生きものは滅びません。少子高齢化の問題も数字だけからマイナスととらえるのではなく、一人ひとりが、もっと大らかに、自分がいちばん大切に思うことは何か、自分自身で考える。自然に親しみ、生きものとしての生き方を大切にすれば、幸せな国や社会が作れるのではないかと思います。(談)
著者:中村桂子
JT生命誌研究館(大阪府高槻市)館長
1936年東京都生まれ。東京大学理学部化学科卒、同大学院生物化学科修了。理学博士。
著書に『科学者が人間であること』『ゲノムに書いてないこと』『小さき生きものたちの国で』ほか多数
JAF Mate ジャフメイト2018年1月号より転記