競馬愛好家の会社員男性が馬券配当で得た所得を申告しなかったとして所得税法違反に問われた裁判があります。
この裁判の争点は外れ馬券を経費と認めるか否かということなのですが、この内容の中で確定申告をしていないという観点からお話したいと思います。
この裁判の争点は外れ馬券を経費と認めるか否かということなのですが、この内容の中で確定申告をしていないという観点からお話したいと思います。
1.概要
平成16年ころから、男性は市販の競馬予想ソフトに自らが過去の統計を基に分析したデータや計算式を付け加えることによって、独自のシステムを構築し、インターネット上で馬券を購入するようになりました。
そして、JRAで開催されている期間の全競馬場のほぼ全レース(障害レースと新馬戦を除く)の馬券を購入し続けていました。
平成17年から平成21年までの5年間の馬券の収支は、下記のようになります。
配当金額:約36億6000万円
購入金額:約35億 500万円
差引 :約 1億5500万円の黒字
そして、実際に口座に入金されていたのは購入金額との差額がまとめて週明けの月曜日にJRAから入金されていました。
平成23年に国税当局から上記競馬の収支について、この収入は所得税法上の一時所得であり、はずれ馬券は経費としては一切認められないとして、的中馬券だけを経費をとして計算した内容に基づく課税処分を受けました。
国税局の計算は下記のようになります。
配当金額:約36億3000万円
購入金額:約 1億5200万円
差引 :約34億7800万円の黒字
男性と国税局の計算結果に大きな差異がある理由は、所得の考え方の違いにあります。
男性 :雑所得として計算
根拠 - 営利を目的とする継続的行為であるので、一時所得に該当しない。
また他の所得にも該当しないことから雑所得である。
国税局 : 一時所得として計算
根拠 - 所得税通達34-1 競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等は一時所得に該当する。
また、男性は競馬の収支が黒字になったことから確定申告をすることを考えましたが、国税当局は、上述のようにはずれ馬券を経費として認めないことを知りました。
通達通りに申告すると自分の手元に残ったお金の何倍もの多額の税金を払わなければならなくなると思いました。
そのため、もし確定申告をして国税当局の言うとおりの納税を求められると生活が破綻してしまうと思い、確定申告をすることができませんでした。
2.確定申告をしなかった場合のデメリット
前回の記事にも記載しましたが、確定申告をしなかった場合には下記のデメリットがあります。
(1)税務署長は、その調査により、課税標準や税額を決定することができます。
(2)決定を受けた場合は、本来の税金に加えて、次の税金が課されます。
1)延滞税 … 2ヶ月以内 年利7.3% 2ヶ月以降 年利14.6%
2)無申告加算税 … 原則として、納付すべき税額のうち50万円までは15%
50万円を超える部分は20%の割合
3.確定申告をしていないという観点から見た今回の事案
確定申告をしていない場合、税務署長はその調査により課税標準や税額を決定することができます。
課税標準とは、税額を算出する上で基礎となる課税対象を指します。
所得税法上、居住者に対して課する所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とされています。(法22条)
具体的には、各種所得につき損益通算・損失の繰越控除を適用しさらに所得控除・特別控除を適用した額を課税所得金額といい、これに税率を乗じることによって税額を算出します。
また、所得税法では所得は10種類に区分されています。
確定申告をする際、この区分に基いて所得を計算していきます。
税務署が課税標準を決定することができるということは、
税務署が課税標準を決定することができるということは、
・税務署が所得の区分を決定する。
・収入になるもの、経費になるものの判断も税務署が行う。
と、いうことになってしまいますので相当不利になります。
と、いうことになってしまいますので相当不利になります。
また、不服申立についてですが、
確定申告をしなければならないことを知っていて数年間申告していなかったということになりますので、確定申告をした人が調査を受けて不服申立をした場合と比較しても不利になると思われます。
参考URL
中村和裕法律事務所