ゲルマーニア(岩波文庫):タキトゥス | 夜の旅と朝の夢

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ゲルマーニア (岩波文庫 青 408-1)/岩波書店

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今回はタキトゥスの『ゲルマーニア』を紹介します。タキトゥスは、ラテン文学白銀期を代表する、というより古代ローマを代表する歴史家。代表作は『年代記』と『同時代史』になるようですが、とりあえずは、それらよりも前に執筆したとされる『ゲルマーニア』から。

タイトルの「ゲルマーニア」とは、概ねライン川とポーランドを流れるヴィスワ川に挟まれた地域のことです。現在のドイツ、チェコ、ポーランドとその周辺にあたります。ちなみにライン川よりも西側は、ガリアになります。

ゲルマーニア地方には、ゲルマン民族と呼ばれる民族の人々が暮らしていて、ローマ人と交流したり衝突したりしていました。本書は、そんなゲルマーニア地方やゲルマン民族に関する地誌、民族誌になります。

当時のゲルマン民族の文化や風俗などを知る資料は、本書を除けば、カエサルの『ガリア戦記』の一部など僅かしかないので、本書の価値は非常に高いと思われます。ただし、タキトゥスは実際にゲルマーニア地方に行った経験もなく、伝聞などに基づいて執筆していたらしいので、記述の信憑性については低いようです。

本書は、ゲルマン民族の文化や風習を、司法や服装などのテーマごとに描いた第1部と、ゲルマン民族の各部族の特徴を描いた第2部との2部構成。いずれも装飾の少ない淡々とした文体で簡潔に書かれていますので、本文だけ読むと物足りなさが残ります。

特に、第1部は、様々な部族の差異を無視して、各テーマを数頁足らずで要約しているので、かなりの無茶を感じます。ただそれを補って余りある非常に詳細な注釈がつけられていますので、そちらも読むとかなりの読み応えがあります。とはいえ、その注釈の内容自体が古くなっている可能性はありますが・・・

物語的な面白さがあるわけでもなく、文化や風俗についても信憑性が低いとなると、読む意味がないと思われるかもしれませんが、自分が常識と思ってどっぷりと浸かっている文化や風俗とは異なるものに触れるというのはそれだけで面白いものがありますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。