【ロシア文学の深みを覗く】
第39回:『白衛軍』
白衛軍/群像社
¥3,675
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今回紹介する本は、ブルガーコフ(1891-1940)の長編小説『白衛軍』です。
ブルガーコフの小説は、このブログでも『巨匠とマルガリータ』と『犬の心臓』を紹介したことがありますが、本書はそれらよりも前に執筆された比較的初期の作品になります。
1917年のロシア革命(十月革命)後、ロシアは混乱し、内戦状態となってしまいます。その内戦は、大まかに言えば、革命側(レーニン率いるボリシェヴィキ政府とその仲間たち)の軍隊である赤衛軍(赤軍)と、反革命側(君主主義者や自由主義者など)の軍隊である白衛軍(白軍)による戦争なのですが、実際には他国や民族の思惑などが絡まり合って複雑な様相を呈していました。
特にウクライナでは、様々な派閥が入り乱れ、キエフだけでも、1917年から3年回で14回もの政権交代があったというのですから、その混乱は「悲喜劇」の域まで達した感があります。
ブルガーコフ自身も当時キエフに住んでおり、14回の政権交代のうち10回は自分でも体験したそうです。本書はその体験を基にした自伝的小説といわれていますが、どこまでが実際にあったことなのかは分かりません。
本書の主な舞台は、1918年4月29日に発足したドイツ軍支援による「全ウクライナのゲトマン」政権時から次のペトリューラ政権(1918年12月14日発足)に移るまでのキエフ。母を亡くしたトゥルビン家を中心に、様々な人物や事件が語られる群像劇的な物語です。
トゥルビン家は、長男の医師アレクセイ(28歳)、長女のエレーナ(24歳)とその夫タリベルグ、そして次男のニコライ(17歳)の4人。
タリベングはゲトマン軍の大尉ですが、「全ウクライナのゲトマン」政権が長くないことを察知して、妻であるエレーナを捨ててドイツに逃亡してしまいます。
アレクセイとニコライは特に強い信念を持っているわけではないのですが、アレクセイは軍医として、ニコライは下士官として、白衛軍であるゲトマン側に付きます。しかし、キエフにはペトリューラ軍が迫っていて・・・
本書は前回紹介した『ドクトル・ジバゴ』と似ているところがあります。主人公は共に医者ですし、時代背景も大体同じ。「問題は、一番大事な、個人所有への尊敬が失われたことにあるんです(P297)」と、組織よりも個人を尊重する姿勢も似ています。さらに様々な角度から描いている点も共通しています。
ただ『ドクトル・ジバゴ』が強い信念を感じさせるのに対して、本書では「歴史の意味は後から分かる」という思想があり、登場人物たちは信念を持っているというより、右往左往している感じがあります。
『巨匠とマルガリータ』や『犬の心臓』とは異なり、幻想的、SF的な雰囲気はありませんし、それらと比べると面白さもやや落ちるかもしれませんが、興味ある方は読んでみてください。
次回はプラトーノフの予定です。