モル・フランダーズ(岩波文庫):ダニエル・デフォー | 夜の旅と朝の夢

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【18世紀イギリス文学を読む】
第14回:『モル・フランダーズ』

今回は、『ロビンソン・クルーソー』で有名なダニエル・デフォー(1660-1731)の小説『モル・フランダーズ』を紹介します。上下巻ありますが、上には上巻だけ貼っておきます。

『モル・フランダーズ』は1722年出版、『ロビンソン・クルーソー』は1719年出版ですので、『ロビンソン・クルーソー』の少し後に発表されたものになります。ちなみに、以前紹介した同作者の『ペスト』は『モル・フランダーズ』と同じ年の出版。

『ロビンソン・クルーソー』も『ペスト』も、ある人物が実際に体験した話をその人物自身が語るという一人称小説の形式で書かれています。本作もその例に洩れず、モル・フランダーズという女性による一人称小説の形式になっています。より正確には、モル・フランダーズが自分の人生をデフォーに語り、デフォーがそれを読むに耐える言葉遣いに改めたという体裁ですが、実際にはフィクションです。

『ロビンソン・クルーソー』が知恵と勇気と信仰心で苦難を乗り越える正の活劇とすれば、本作は浅慮と虚栄と出来心で苦難に負けて堕落していく負の活劇。どちらも説教主義的ではありますが、クルーソーが模範教師であるとすれば、フランダーズは反面教師なのです。そういう意味では、『ロビンソン・クルーソー』と本作は対を成しているといえるでしょう。

現実世界では、悪人よりも善人の方と仲良くなりたいですが、フィクションでは悪人の方が生き生きとして描かれたり、悪人に魅かれることも多々あります。手塚治虫も善人ブッダよりも悪人ロックを描く方が好きだったみたいなことをどこかで言っていたはず。

フランダーズは、悪人といっても、人を殺してカンラカラカラと笑ったり、国家転覆を狙ったりするような大悪党とは違って、状況が揃えば誰でも陥ってしまうような悪人なのですが、ただフランダーズに同情するか、嫌悪感を抱くかは多分読み手しだい。フランダーズはそんな評価の分かれる奥深さを持ったキャラクターであって、クルーソーとは一線を画す存在です。

僕はクルーソーよりもフランダーズに魅かれ、ひいては、あの名高い『ロビンソン・クルーソー』よりも『モル・フランダーズ』の方に軍配を上げたいと思いました。まあ好みといえばそれまでなのでしょうけど、読んで頂ければ、少なくとも知名度の差が面白さの差を示しているわけではないことだけは納得していただけるはずです。

のちにモル・フランダーズと呼ばれることになるベティは、ニューゲート監獄の中で産声を上げた。彼女の母親は、窃盗罪でニューゲート監獄に収監されており、ヴァージニア植民地への流刑を宣告されていたが、出産まで刑の執行が猶予されていたのだった。

ベティは孤児同然の境遇で育ったが、運よく市長夫人の元に引き取られる。だが、夫人の息子兄弟の兄にそそのかされて操を奪われると、そのまま兄と愛人のような関係になってしまう。ベティと兄は隠れて交際を続けるが、ベティはあろうことか弟のロビンから求婚される。兄は、動揺するベティを何とかなだめすかし、ロビンとの結婚を承認させる。結婚生活の間に、兄は別の女性と結婚してベティの元を離れ、そして5年後、ロビンが死にベティは未亡人となるのだった。

その後、ベティは様々な理由で結婚と離別とを繰り返すことになるのだが、ある時、貧困への恐怖から盗みを働くことに。これが巧くいった。というより巧くいきすぎた。どうやらベティには盗みの才能があったのだ。味をしめてベティは盗みを繰り返し、ついには裏稼業の人間からモル・フランダーズと呼ばれる完全な盗人になった。ベティは徐々に罪の意識すら消えていき・・・

というストーリー。冗漫なところが無きにしも非ずですが、悪女を主人公にしたピカレスク小説として非常に面白いですので、ぜひ読んでみてください。

下巻
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関連本
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