美神の館 (中公文庫):オーブリ・ビアズレー | 夜の旅と朝の夢

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美神の館 (中公文庫)/中央公論社

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今回は、色々あって間が空いてしまったので、リハビリを兼ねて『美神の館』を簡単に紹介してみます。

作者は、本書ではビアズレーと表記されていますが、ビアズリーと書くのが一般的でしょう。1872年誕生、1898年歿。25歳という若さで亡くなったイギリスの芸術家です。詩文や音楽の才もあったようですが、本領は画家というかイラストレータで、オスカー・ワイルドの『サロメ』の挿絵などが代表作とされています。

ビアズリーのペン画は、細かな線で細部まで精密に描いた箇所と、大胆な白抜きや塗りつぶしを用いた箇所とのコントラストが特徴的で、人物等は奇妙に歪んでいながらも耽美で妖艶。ビアズリーの名前は知らなくても絵を観れば、ああこの人かと分かる方も多いと思いますので、検索してみてください。

本書はそんなビアズリーが執筆した唯一の小説。

粗筋はタンホイザー伝説に則っています。つまり、愛の女神ウェヌス(ビーナス)の森に入った騎士兼詩人のタンホイザーがウェヌスとの愛欲の日々を過ごす。その後、タンホイザーは悔悛し、ローマ法王の下へ懺悔に赴くが、法王の杖から葉が生えない限り救済できないと告げられる。その答えに意気消沈したタンホイザーは、再びウェヌスの下に戻る。後日、法王の杖から葉が生えるが、時すでに遅く、タンホイザーはもうどこにも見当たらなかった。という話です。

本書は、残念ながら未完であって、タンホイザーがウェヌスの住む館に訪れた日とその翌日までの導入部しかありません。

ということで、ストーリーはあってないようなもので、ウェヌスの館の描写や、館の住人の説明、そしてウェヌスや他の住人とタンホイザーとの秘め事の話などがメイン。

なので、やや物足りなさを覚えてしまうかもしれませんが、個人的には、タンホイザーの人間的な悩みのような「人間味」を描いた箇所がなく、美とエロの視覚的、感覚的な描写に徹しているところがすごいと思う。デカダンスだね~って感じ(笑)

一般受けは望めませんが、一風変わった小説が読みたい人にはおススメ。現在のところ品切れ(絶版?)のようですが、古書なら安価で購入できるようですので、興味ある人はぜひ。

あと、ビアズレーのイラストも比較的多く数収録されていますので、それを観るつもりで買ってもいいかもしれませんね。