ロデリック・ランダムの冒険/荒竹出版
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【18世紀イギリス文学を読む】
第13回:『ロデリック・ランダムの冒険』
長々と続けている【18世紀イギリス文学を読む】も今回を入れて後3回の予定。できれば今月中には終わらせたいと思っています。
さて今回紹介する本は、トバイアス・スモレット(1721‐71)の『ロデリック・ランダムの冒険』です。
岩波文庫版の『ウェイクフィールドの牧師』の訳者解説では、イギリス小説の創始者的役割を果たした4人の人物として、『パミラ』のサミュエル・リチャードソン、『トム・ジョウンズ』のヘンリー・フィールディング、『紳士トリストラム・シャンディの生涯と意見』のローレンス・スターンとともに、トバイアス・スモレットの名が挙げられています。
日本では、18世紀イギリス文学自体あまり人気がないようですが、それでもリチャードソン、フィールディング、スターンについては、そこそこ名が知られていると思います。それに対してトバイアス・スモレットはかなりマイナーです。
イギリス文学を学んだり研究したりしている人ならいざ知らず、一般的にはほぼ無名といってもいいくらいですね。僕は名前だけは知っていましたが、読んだことはありませんでした。
スモレットの代表作として名高いのは『ハンフリー・クリンカー』です。一応邦訳もあるようなのですが、絶版。アマゾン、日本の古本屋、スーパー源氏という日本3大古書サイトでも現時点で取り扱われておらず、僕は入手できていません。
それに比べてデビュー作である本書『ロデリック・ランダムの冒険』(1748年出版)は、絶版ではありますが、多少手に入りやすいようです。ただし高い。元値が5800円(税抜き)もするのに上に、プレミアまでついているから泣けてきます。そして重い。大型本で約500頁というだけで重いのに、上質な紙と布張り表紙までついてほとんど筋トレ道具。
本書はいわゆるピカレスク小説というジャンルに属します。ピカレスク小説は、悪漢小説などと訳されますが、ちょっと誤解を生むような名称です。悪漢小説などというと、人を人とは思わない残虐非道な人間を主人公にした小説のようにも思われてしまいそうですが、そういうわけではありません。
階級が低い人間を主人公とし、その主人公が悪党の巣食うこの世の中を冒険または遍歴していくという物語です。その中で主人公も悪事に手を染めることはありますが、必要に駆られて行う場合が多く、どちらかといえば、悪は主人公より社会の方にあります。
ピカレスク小説で手に入りやすいものとしては、作者不詳の『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』(岩波文庫)があります。150頁の薄い本ですので、興味ある方は是非読んでみてください。
スコットランドの名家の末っ子とした生まれた男は家政婦的な役割を果たしていた女性と結婚して子供を持つが、そのことが原因で家を追い出されてしまう。女性は死に、男は何処かへと旅立ってしまい、ロデリック・ランダムと名付けられた子供だけが村に残された。
ロデリックは優秀な人間に成長するが、村の権力者に疎んじられ、正当な評価がなされず、犬に襲わされるなどのいじめにあう。そんなある日、母の兄で軍艦の副官を務めるトム・ボウリングが現れ、ロデリックはボウリングの援助を受け、町で大学に通うようになる。
学業においてめきめきと進歩するロデリックであったが、ボウリングを襲ったある事件により金銭的援助がなくなると、下宿先を追い出されてしまう。そこからロデリックの波乱万丈な人生が幕を開ける!
その後は、まさに渡る世間は鬼ばかりといった感じの物語なのです。悪党どもに騙されたり虐待されたりなど、基本的に不幸な目にあってばかり。それでも、どうにかこうにか前に進んでいくロデリックに応援したくなります。
ロデリックは自尊心が強すぎたり、怒りっぽかったり、必要に迫られて悪さもするのですが、それがまたロビンソン・クルーソーのような“出木杉君”とは違って、血のかよった人間って感じでいいですよね。
手に入りにくさなど本としての敷居は高いですが、内容的には純粋に楽しめるものですので、興味がある方は是非読んでみてください。
関連本
ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯 (岩波文庫)/岩波書店
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