【18世紀イギリス文学を読む】
番外編2:『ヴェニスの刺客』
今回は、前回紹介した『マンク』と同じ作者マシュー・グレゴリー・ルイスによる中編小説『ヴェニスの刺客』です。『マンク』は1796年出版とギリギリ18世紀でしたが、本書は1805年出版と19世紀にははみ出てしまっていますが、同じ作者なのでついでに【18世紀イギリス文学を読む】の番外編第2弾として紹介します。
いつもは上にアマゾンのリンクを貼っているのですが、なぜか本書はアマゾンには登録されていないので、今回は省略して、代わりに簡単に書誌的データを書いてみましょう。
本書は、「牧神社」という今は無き出版社から出ていた『埋もれた文学の館』というシリーズの一冊で、当然ながら絶版。箱入り本195頁、普通の単行本よりやや縦長の変形本です。翻訳者は柄本魁。アマゾンにはありませんが、『日本の古本屋』やスーパー源氏』などのネット古書店で千円程度で購入できます。
日が暮れたヴェニスの大運河の岸に、物悲しげな異邦人が座っていた。異邦人の名はアベルリーノ。ビタ一文もなく、死ぬ程腹を空かせていた。彼は何やら意味深な言葉を独りごちると、立ち上がって、トボトボと歩き始める。と、後ろから刺客に襲われそうになっている男が目に入り、その男を助けてやる。そして、助けたお礼に施しを求めるが、男に「何と浅ましい奴だ。詐欺(いかさま)だと云うことは判り切ってらァ。みんな二人でやった共謀だ(P12)」と言われてしまう。
それに腹を立てたアベルリーノは一大決心をして盗賊団に入団し、悪の限りを尽くし始める。アベルリーノにはヴェニスを恐怖に陥れるだけの悪の才能があった。そんな中、アベルリーノは、あろうことかヴェニスの総督の娘ロザベルラ姫に恋をしてしまう。
一方、アベルリーノや他の悪党どもを捕まえることのできない総督の下にフロドアルドという青年が現れる。彼は、ヴェニスに来たばかりだというのに、アベルリーノを除く悪党どもをあっという間に捕まえてしまうのだった。さらに、フロドアルドもまたロザベルラ姫に恋をしてしまう。
また、それとは別に、ヴェニスに住む貴族パロッツィを中心とした一団は、枢機卿さえ仲間に引き込み、ヴェニス転覆の陰謀を虎視眈々と練っていた。
とまあ、そんな感じの複数の筋が同時進行的に進む話です。もちろんこれらの筋は最終的には絡み合ってくるのですが、これが絶妙に絡み合うんですよ。まあ、ちょっと予測可能かもしれませんが、納得のラストですね。
絶版というのが玉に疵ですが、古書店でプレミアが付いているわけではないので、是非買って読んでみて欲しい本ですね。『マンク』は分厚い本なので、本書からルイスに入ってもいいと思いますよ。