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【18世紀イギリス文学を読む】
第9回:『マンク』
今回は、マシュー・グレゴリー・ルイス(1775-1818)の1796年の小説『マンク』を紹介します。
本書は、前回紹介した『オトラント城』の流れを汲むゴシック小説の中でも特に有名な小説の一つで、本書があまりに有名になりすぎたため、作者マシュー・グレゴリー・ルイスはマンク・ルイスと渾名されることもありました。
本書は、芥川龍之介の短編小説『さまよえる猶太(ユダヤ)人』でも触れられていますので、その有名さは推し量れると思います。
『モンク・ルイズのあの名高い小説の中にも、ルシファや「血をしたたらす尼」と共に「さまよえる猶太人」が出て来たように記憶する。(『奉教人の死』新潮文庫、P22)』
芥川はモンク・ルイズと書いていますが、これは単なる表記上の問題で、ここでいう「名高い小説」というのが本書のことです。
原タイトル「The Monk」で翻訳すれば「修道僧」。芥川のように「モンク」と書かれることもありますが、発音的には「マンク」の方が正しいですね。
さて本書は、国書刊行会から世界幻想文学大系として上下巻に分かれて出版されていたものの新装版。上下巻を合本しているせいで642頁とかなり厚い本になっていますが、本文の左右にかなりの余白があるので、厚さの割には読む分量は少ないと思います。
ちなみに去年映画が公開されまして、その際、本書は再販されたのですが、表紙が映画のワンシーンを使ったものに変更されています。このため、上のリンクからアマゾンで買うと、別の表紙の本が届くと思いますのでご注意を。
舞台は中世マドリッド。そこに建つカプチン教会は、眉目秀麗な僧院長アンブロシオの人気で賑わっていた。彼は、信仰心が厚く修道院から外に出たことも人間だが、説教には人の心に響く何かがあった。
そんな説教を聴いていた群衆の中に美しい女性アントニアとその叔母の姿があった。アントニアと同席した貴族ロレンゾはアントニアに惚れてしまう。
また、ロレンゾの妹アグネスは、とある事情から教会の隣にある厳格な尼僧院で暮らしていた。尼僧院で暮らす者にとって男性との恋愛なぞ許されるわけもないのだが、実はアグネスは、ロレンゾの友人でもあるシステルナス侯爵と恋仲にあったのだ。
と、その一方で僧院長アンブロシオに崇拝に近い敬意を見せる見習い僧ロザリオが、実は自分が女であることをアンブロシオに告げる。教会から外に出たことがなく、誘惑にさらされたことがなかったアンブロシオは強く動揺し、ついには、彼女の魅力に負け、一線を超えてしまう。
ロレンゾとアントニア、システルナス侯爵とアグネスという二組のロマンスの影で、アンブロシオの堕落の物語もまた幕を上げるのであった!
二組のロマンスとアンブロシオによる残虐な物語が光と影のような対照的な雰囲気を醸し出しつつ、互いに絡み合って展開していくのですが、これが面白い。
ゴシック小説の嚆矢『オトラント城』から30年あまり後に出た作品ですが、その間にゴシック小説は確実に進歩していたのでしょう。登場人物たちも生き生きとし、『オトラント城』で覚えたぎこちなさは完全に解消されている感じです。ゴシック小説なんてキワモノと思っている人にも是非読んでもらいたい傑作ですね。
関連本
奉教人の死 (新潮文庫)/新潮社
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