ペスト(中公文庫):ダニエル・デフォー | 夜の旅と朝の夢

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【18世紀イギリス文学を読む】
第6回:『ペスト』

18世紀イギリス文学の中でも最も有名な小説家といえば、『ロビンソン・クルーソー』のダニエル・デフォー(1660-1731)と、『ガリヴァー旅行記』のジョナサン・スウィフト(1667 -1745)の二人で決まりでしょう。

「18世紀イギリス文学を読む」というテーマ上、この二人は外せないわけですが、『ロビンソン・クルーソー』と『ガリヴァー旅行記』はあまりに有名なので割愛させていただいて、今回は、デフォーの『ペスト』(1722年出版)を紹介します。ちなみに次回はスウィフトの予定です。

デフォーは『ロビンソン・クルーソー』以外にも250作以上の小説やら政治的パンフレットを書いているらしいのですが、邦訳されているものは少ないのが現状ですね。そもそも『ロビンソン・クルーソー』も第3部まであるらしいのですが、邦訳があるのは第2部までなのです。

本書は、そんなある意味不遇なデフォーの諸作の中では、中公文庫で長く売られていることもあって、比較的有名な方ですね。

ただ、本書はペストの大流行に見舞われたロンドンを描いた実録モノのように思われがちですが、実際には違います。ペストがロンドンを襲ったのは、1665年から1666年にかけてですが、デフォーはその頃5、6歳でとても状況を記録できる歳ではありません。

本書は、大人(というか老人)になったデフォーが当時の資料などから、ペストに見舞われたロンドンの再構築したものであって、H.F.氏という人物の回想録を装った小説なのです。

ペストがロンドンに忍び寄り、徐々に死者の数が増えてくると、裕福な人々はロンドンを離れていきます。H.F.氏も裕福な商人でロンドンを離れることもできたのですが、ちょっとした行き違いから出遅れてしまう。H.F.氏はそれを神の思し召しと解釈してロンドンに留まることに。そして、後年、そのときに自分が見聞きしたことを回想する。

とまあ、大枠としてそんな話ですが、統一的なストーリーがあるわけではなくて、様々なエピソードがメインになります。

最も長いエピソードは、ロンドンを脱出した3人組の男たちの話で約50頁。これがちょっとした短編小説並に面白い。

それ以外にも、怪しい薬を売って荒稼ぎする医者や、人々の不安を煽る占い師や預言者たちの話、ペストを発症した人が出た家を閉鎖して、まだ健康な家族や召使なども家に閉じ込めるという法令の話、人との接触を恐れてテムズ川に舟を浮かべて暮らす人の話などなど興味深いエピソードが多くて、想像していた以上にのめり込めました。

ただあまり構成を練っていないのかなんなのか、同じような話を何度も繰り返したりするところがあってやや冗漫な印象がないわけでもないです。特に家を閉鎖する話は、執拗に繰り返されるので、何度すれば気が済むのかと思わずツッコミたくなるほどでした。

まあ当時の読者は、今と違って、そんなことは気にならないくらいゆったりと読書を楽しんだのでしょう。ちょっと羨ましいですね。

以下、関連本
ちなみに、『ロビンソン・クルーソー』は上巻が第1部で下巻が第2部です。有名な無人島漂流の話は第1部なのです。

ロビンソン・クルーソー〈上〉 (岩波文庫)/岩波書店

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ロビンソン・クルーソー〈下〉 (岩波文庫 赤 208-2)/岩波書店

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ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)/岩波書店

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