夜間飛行(新潮文庫):サン=テグジュペリ | 夜の旅と朝の夢

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夜間飛行 (新潮文庫)/新潮社

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今回は新潮文庫の『夜間飛行』を紹介します。作者は、サン=テグジュペリ(1900-1944)。フランスの作家であり、飛行機の操縦士でもあります。

サン=テグジュペリといえば、なんといっても童話『星の王子様』が有名ですが、他の作品は自身のもう一つの職業である操縦士ものが多いのが特徴です。

本書には表題作の「夜間飛行」の他に、「南方郵便機」という作品が収められています。どちらも中編程度の小説で操縦士が重要な役割を果たします。

収録順とは異なりますが、先ずはサン=テグジュペリのデビュー作「南方郵便機」から。

「南方郵便機」は、郵便飛行機の操縦士ジャック・ベルニスの恋愛と操縦士として冒険(職務いうべきかな)について、ベルニスの幼馴染が語るというもの。詩的で美しい文章やエピソードなどがあって、読ませるですが、プロットが複雑で話がちょっと分かり辛いのが難点。

プロットが複雑なのは嫌いではないのですが、問題なのが、この分かり辛さが狙ったものではない気がするところ。つまり、正直いって拙い感じを受けてしまうんですよね。あと、語り手が知り得ないことまで書いてあって、どうやって知ったのか疑問を感じるところもあります。

例えば、「言い終わって、医師は考えた、「自分はこの夫人の悩みほど深い真実はみたことがない」と。(P169-170)」っていうけど、医師の考えをどうやって知ったのかとか。

まあ、そんな細かいところが気になって、個人的には、物語に入り込めなかったです。

一方でサン=テグジュペリの2作目となる「夜間飛行」の方は、結構気に入りました。最初の方はやはりちょっと分かり辛いのですが、それを超えると、物語に引き込まれます。

主人公は、郵便会社の支配人リヴィエール。郵便飛行機を定刻通りに運行させることを自分の使命に位置付ける男。「規則というのは、…中略…、ばかげたことのようだが人間を鍛えてくれる(p34)」と考え、「生命力あるものは、…中略…自らの法律を生活するために、あらゆるものをけちらかすものだ(p70-71)」と考える、感情に流されることを是としない男です。

そんな自らの法律と規則を指針とするリヴィエールの前に事件が起こるのですが、彼は何を思いどのように対応するのか…そこが読みどころとなる小説だと思います。

僕自身は、リヴィエールに共感できるわけではないのですが、それでも、リヴィエールの生き方や考え方に一目を置かざるを得ません。堀口大学の訳もいいですし、物語に力強さもあります。

ですから、もしリヴィエールに共感しちゃうような人が読めば、物凄く気に入る小説になると思いますね。ということで、とりあえず、未読の方は読んでみてはどうでしょうか。