崖っぷち (創造するラテンアメリカ)/フェルナンド・バジェホ
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「創造するラテンアメリカ」と題されたラテンアメリカ小説シリーズの第1弾です。本シリーズの続刊情報は特にないようですが、ラテンアメリカ文学好きとしては注目したいシリーズですね。
作者のバジェホ(1942‐)はコロンビアの小説家とのことですが、邦訳は本書が初めてだそうで、私も本書を読むまで知りませんでした。
コロンビアの小説家と言えば、ガルシア=マルケスが有名ですが、小説のスタイルは大きく異なっていて、マジック・リアリズムなどとは全くの無縁です。
例えば、ヘンリー・ミラー、ジャン・ジュネ、セリーヌの諸作品などのように社会や既存秩序を、口汚い否定と呪詛の言葉で饒舌に罵倒するスタイルを私は「罵倒系」と勝手に呼んでいますが、本書は、その「罵倒系」の系譜に属する作品です。
本書における罵倒の矛先は、コロンビアの腐敗した社会そのものですが、特に、キリスト教(カトリック)と母性に向けられています。例えば、こんな感じ。
「あの教皇さま、害獣、ねばねばしてぐにゃっとした詐欺師の白い蛆虫。ああ、白い靴、白い靴下、白いカッパ、白い帽子! 恥ずかしくないのかよ。ホモ爺、ゲイパレードじゃあるまいし毎日そんな恰好して!(p53)」
「戦争ではあの女(主人公の母)も、つまり寛大なるあの女、自堕落なあの女、気狂い女王、アナーキー気狂いババァ、孕み女も犠牲になったのだが…(p73)」
章分けや空白行は一切なく、基本的に上のような口汚い言葉で全編埋め尽くされています。ストーリーは、他の「罵倒系」と同様にあってないようなものです。
一応、簡単に説明すれば、20数人も子供を産んだ気狂い女の長男「おれ」が、次男のダーリオがエイズで死にかけているということを聞いて生まれ故郷に戻ってくるところから話は始まります。そこには、2階から降りることのない気狂い女こと自分の母と、癌でやはり死にかけている父がいて、「おれ」がダーリオや父の看病をするというもの。ただ、実際には、過去の回想だとか、母や他の兄弟、親族たちなどにまつわるエピソードを社会に対する罵倒とともに描かくことがメインです。
まあ、こういった小説は好き嫌いが激しく分かれるものだと思いますので、おススメとは言えませんが、ミラーやジュネが好きな人は読んで損はないと思います。ちなみに「罵倒系」は比較的長い小説が多いのですが、本書は200頁程度ですので、苦手な人でもなんとかいけるとは思います。