桜。
急に暖まった風。
それらにとまどってふらつくのは、私ただ一人。
のような気がする。

ちまたは新入社員が大きな希望と得体のしれない使命感を胸に、
こぞって着慣れないスーツに身をつつみ、社会にデビューする季節だ。

ライバルとなってゆく同期たちに負けないように、かすまないようにと
精一杯胸をそらす、その様子から独特の緊張感がつたわってくる。
私も一年前は彼らと同じだった。

でも今の私には職がない。

去年の秋、私は社会から離れた。
というか、脱落した。

でも脱落というと負けたような気がするから、
前向きに別れた、といった表現にしておく。

職場がないってことは、居場所がないってことなんだと、
会社を辞めてから知った。
仕事をすることだけが、人の生きる道じゃないって言う人も
なかにはいるかもしれないけど、
少なくとも今の私にはそう思える。



私は、いわゆる「大手企業」と言われる会社に勤めていた。
新卒で得意満面に入社して、気付いた時には
1年も経たずして退社していた。

何故こうなったのか、説明しろと言われても、うまく説明できない。
ただあまりにも早く限界が訪れた、としか言いようがない。
そしてふと現実を直視すれば、貯金にも限界が訪れようとしている。

生きるってむずかしい。

そんなことを、恰好つけるためじゃなく
真顔で考えたりするようになった。
これもいい経験だ、なんてうそぶく余裕とてない。

家族はいる。
友達もいる。
長年付き合っている恋人もいる。

そういう意味での居場所ならある。
でも、働いてないって、本当に心が寒くなるくらい
居場所がないってこと。

誰もがみんな、自分が属するべき箱を求めて、生きる。
箱に入りそびれたが最後、永遠に何者でもない自分と
向き合わなければいけない恐れを抱いて。

そこから、この話は始まる。