序章 狂気は春と共に
「今日もまた…3人も…。」
「…はい。」
「私が葬っておく。貴方は戻って。」
「しかし、幽々子様…」
「良いのよ。私がすべき事なんだから。
妖忌に全て任せるわけにも行かないでしょう?」
若い女性と、年を重ねた男性の2人。
理由あって、動物すら立ち入るのが困難な、
人目につかない山の深みに、ひっそりと暮らしている。
にもかかわらず、1日に3人もの客を迎え、
その3人共が命を落とすという、異常な空気。
山に負けて力尽きたのではない。3人共、自尽したという。
幽々子の瞳は、重く悲しい光を帯びていた。
「この季節は、毎年憂鬱でございますね…。」
「…慣れないものね。何年経っても。」
気は慣れずとも、身体は慣れていくのか。
幽々子は、手早く屍を葬していく。
幽々子に仕える妖忌は、その様を見ながら庭掃除を進める。
この様子を、少し離れた所から見ている者が3人。
「ふ~ん、なるほどねぇ。そういう事だったのね…。
随分とおかしなペースで、あの世が賑やかになると思ったら。」
「しかし、あの桜も人間2人も、簡単に処理は出来ませんね…。」
「そうねぇ…。」
「え、切っちゃうんですか? あの桜の木…。」
「橙、世の中に意味の無いモノは無い。
その力が大きいほど、失った時に崩れるバランスが大きい。
あれほどの大木を、簡単に切るわけにはいかない…。」
「そうなんですね…。」
「そう。そうなのよ…。藍、私が何とかする。
暫く空けるわ。貴方に預けるわよ。」
「はい。…紫様、どうか深入りされませんよう。」
「あらぁ、そんな心配は必要ないわよ。
深みと浅瀬の境界なんて、あやふやなものだし。」
紫の表情は、いつもと変わりなかった。
にもかかわらず、何か変な胸騒ぎを覚える藍。
妖怪もまた、狂おしい美しさには惑わされるものなのか…。