もうそろそろ寿命かなと思っていたが杞憂だった。
代わりに左後脚が脱落。
やはり取れてしまった。
三月に入れば4か月突入。
他のカマドウマたちは旅立ってしまったが食欲もきちんとあり、フンもきちんとしている。
片脚になってもジャンプをするのでハラハラする。
カマドウマの餌の食べ方は毎回ながら独特で、脚が長い上に顎が他の直翅目に比べ細く、汚れるのをとにかく嫌うので頭を下に下げたり顎を横にしながら齧ったりとバリエーション豊富。
小さな死骸などはハチの硬い外骨格を砕くほどには強い。
こちらはある経緯で頂いた貴重な資料。
虫の起源は甲殻類と言われており、図にすると海老にしか見えない。
やはり珍虫。
タフさと生命力に溢れたこのオス。
相変わらず人の手にフンをする。
このオスの親はきっと強い遺伝子を持っていたのだろう。
他にカマドウマがいないか探したがまだ遅い時期。
自切した脚を食べてまで産卵したメスの姿を思い出す。
去年、終齢幼虫から成虫へとなり念願だった野外への解放をした壱号ちゃんと名付けたメスは子孫を残しただろうか。
卵は孵化するだろうか。
片脚だろうと器用に登ったり隠れたり。
やたら目立つ大きな雫を逆さにした瞳から、
生命力を舐めるんじゃないぞ人間!
と感じる。
生きるという当たり前の本能。
我々人はふとした瞬間、ついそれを憂いたり時に辛いと感じる。
彼らはいつもそんな無駄な時間はないとばかりに生きて死んでいく。
時折、駅のコンクリートの上で誰も見向きもしなかった、ただの染みとなってしまった命の痕跡を思い出す。
その染みも消えてしまったが、記憶の中に確かにある。
幼少期、遊び場だった場所。
沢山の生き物がいた場所。
思い出の場所。
今はなくなってしまったが記憶の中にあればそれでいい。
誰も覚えていなくても、記録として残す事で誰かがいつか拾ってくれるかも知れない。
そのうち飼育ケースが空になる日がやって来る。
それまではまだ寒い夜を共に生きる。
欠けて新月に向かう月を見ながら。