2024年3月3日 しんぶん赤旗日曜版
すがすがしい読後感です。音楽プロデューサー・松尾潔さんの新著『おれの歌を止めるな』（講談社）。「メロウな（甘くて柔らかい）ラブソングを作るためには、鋭く声を上げなければならない」と語る著者に思いを聞きました （板倉三枝記者）←2023年6月12日のジャニーズ事務所の記者会見で、真っ先に質問して周囲の雰囲気を「え!?あの…」という曰く言いがたい空気に固まらせた方です。
〈サブタイトルには｢ジャニーズ問題エンターテイメントの未来｣とあります〉
松尾：2023年には、ジャニーズ、歌舞伎、宝塚といった老舗の古いシステムが”賞味期限切れ”だったことが、同時多発的に顕在化しました。後で振り返ったときに、｢23年、24年は、日本の古いものが膿（うみ）のように出て新しく変わった節目だったよね｣となればいいと。
今起きていることをミクロとマクロで見ることが必要です。俯瞰（ふかん）で見ると、構図が似ている。古い組織の、しかも閉鎖的なコミュニティーで起こるべくして起きている権力犯罪です。
エンタメの世界だけでなく、この国全体で起きていることだと捉えることが大切です。
〈｢芸能と社会的公正を地続きで語ろう｣と話します〉
松尾：｢性加害なんてさまつな問題｣という高名なジャーナリストがいます。世界情勢を伝えることに比べれば、取るに足らないと。
でも被害に遭ったのが自分の家族だったらどうでしょうか。昨年秋、｢ジャニーズ性加害問題当事者の会｣に所属していた男性が自ら命を絶ちました。
家族にとっては、戦争で亡くなった命もジャニー喜多川氏の性被害が原因で亡くなった命も、命の重みに差はありません。｢国のために死ぬのなら喜ばしい｣という時代に戻したくはないですよね。そのためにも、ジャニーズ問題とパレスチナ危機を同じ口で語るスタンスが大切です。
〈昨年5月、ラジオでジャニーズ問題について発言したことが、山下達郎氏のマネージメント会社との契約解除につながりました〉
松尾：ボクはこの業界にいながら昨年3月の英BBC(英国放送協会)の番組を見るまでジャニーズ問題について具体的に知りませんでした。本当に恥ずかしいです。でも、過ちは改むることにはばかることなかれ。そんな思いで発言を続けています。
ラジオで言ったのは、今回の疑惑を放置すると子どもたちが性犯罪・性暴力の被害者になった時、｢声をあげても無駄だ｣という諦めの気持ちになるかもしれない。一人一人が、この国が抱える問題として当事者意識を持ち、みんなで膿を出すことに、かじを切るべきべきじゃないか、ということでした。批判ではなく提言です。僕は、業界内から声をファーストワンになろうと思ったのですが、今のところオンリーワンになりかねない。
今年になって顕著に増えたのは｢まだ言っているのか｣という中傷です。｢年が明け社名も変わってジャニーズは新しくなった。禊（みそぎ）は終わった｣と。年が明ければ禊が終わるなら楽なものです。
〈松本人志氏の性加害疑惑や榊原英雄監督の性暴力事件など、芸能界における性暴力は後を絶ちません〉
松尾：松本氏の問題では、当初メディアは何も言いませんでした。言わないということは免責に加担している、ということです。ジャニーズ問題で、さんざんこの構図が問題にされたのに学んでいないのか。あるいは忘れたふりをしているのか。
結果的にメディアとエンタメ業界が一緒になって性暴力を不問に付すと悪習を維持してきました。
言わなきゃ未来はくらいまま
〈小泉今日子さんが、音楽家の近田春夫さんとラジオ番組で松尾さんの「覚悟」に触れていました〉
あれには大変勇気づけられましたね。いろんな人たちから、発言することでの実害の有無を聞かれます。
長い付き合いの放送局から出演依頼が途絶えたりもありましたが、それが番組内外での発言や行動によるものなのかどうかは、僕にだって分かりませんよ。
はっきり言えるのは、僕は「ここで口をつぐんだら、未来は暗い」と思っていること。音楽業界、エンタメ業界だけではなく、自分の未来も、です。
この国では、寡黙（かもく）を美徳とする人たちが忖度（そんたく）の空気をはびこらせてきました。僕は「沈黙の大国」と読んでいるのですが。エンターテイメントというかけがえのないものを守りたければ、政治や社会と向き合うことから逃げるわけにはいかない。
シンガー・ソングライターのビヨンセは、自分が当事者になれ、と言っています。キング牧師も「最大の悲劇は悪人の暴力ではなく善人の沈黙」と。僕はこれからも「おれの歌」を歌い続けます。
2024/4/29 #松尾潔 #Arc Times （司会・尾形×望月）】
【松尾潔・ジャニーズと山下達郎氏に思うこと／スマイルアップとBBC、小池百合子氏、自民惨敗、音楽と社会／政治をもっと気軽に語ろう
《雑学亭閑話》
久しぶりにコピペではなく、全文手入力をしましたが睡魔に襲われてたいへん。つくづくデスクワークに向かないヤツ（自分です）だと思いました。