松尾潔が語る、スマイルカンパニー契約解除全真相 | 雑学三昧のブログ

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いまだにジャニーズの性加害を批判できない「哀れなるものたち」─松尾潔が語る、スマイルカンパニー契約解除全真相

2024年2月19日 長野 光
僕の知る「山下達郎」は弱者の眼差しを常に持ち続けてきたミュージシャンだったのに……
 

2023年7月1日、あるポスト(ツイート)が話題を集めた。

「15年間在籍したスマイルカンパニーとのマネージメント契約が中途で終了になりました。私がメディアでジャニーズ事務所と藤島ジュリー景子社長に言及したのが理由です。私をスマイルに誘ってくださった山下達郎さんも会社方針に賛成とのこと、残念です。今までのサポートに感謝します。バイバイ!」

ポストしたのは、大物ミュージシャンやグループを手掛けてきた音楽プロデューサーの松尾潔氏。この3カ月後、2度目の会見を開いた旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP社)は、ジャニー喜多川氏の性加害の事実を認め、謝罪し、社名を変え、被害者への補償を約束し、トップの交代を決めた。

 大手メディアも及び腰の段階だったにもかかわらず、音楽・エンタメ業界のど真ん中から、日本最大の芸能事務所に対して声を上げたその人は今何を思うのか。『おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来』(講談社)を上梓した松尾潔氏に聞いた。(聞き手:長野光=ビデオジャーナリスト)

 

※このインタビューにおける松尾氏の発言について、事実がどうかスマイルカンパニーに質問しましたが、回答はありませんでした。

 

──ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長が、昨年5月に謝罪動画を出した翌日、松尾さんはラジオ番組で「ジャニーズの問題を放置してはならない」という主旨の発言をし、この直後に所属していた音楽プロダクションから契約を解除されました。プロダクションの社長と、お互いに涙を流しながら契約解除について話したことなどを本書で赤裸々に書かれています。

 

松尾潔氏(以下、松尾):昨年5月にジュリー社長が謝罪の動画を出した時には「大変な決心をして表に出てこられたな」という印象を持ちました。というのも、ジュリーさんは、それ以前はまず公に姿を見せない方でしたから。

 でも、謝罪動画で話していることを聞いてみると、内容は不十分だと感じました。これでは本質的な改善につながる対応ではないと思い、翌日、僕が出演した福岡のラジオ番組「田畑竜介Grooooow Up」(RKBラジオ)でそのことについて話しました。

本書にも、僕がその時に話した内容の書き起こしが掲載されています。読んでいただければ分かると思いますが、突飛なことは何一つ語っていません。

 これまでずっと自分が意見を言う時には、努めて冷静に話したり書いたりすることを心掛けてきました。当たり前の指摘をしているだけなので、批判、告発、あるいは暴露といった先入観ありきで持った方が読むと、むしろ拍子抜けされるくらいです。

 でも、ジャニーズの性加害問題では、そもそも自分の意見を語る業界関係者が少なく、「松尾の言うことなんて業界人なら知っているけれど、言わないだけ」という冷笑的なムードがはびこっています。「それを言ったらお終いよ」と臭いものに蓋をしてきた歴史があるんですね。

ところが、知ったら言わずにおれない僕が言ってしまった。そういうことなのかもしれません。

 

──プロデューサーとして名だたるアーティストを世に送り出してきた松尾さんの発言ですから、大きく話題になりました。

 

松尾:後日、ラジオ番組で話した内容の書き起こしが番組のサイトに掲載されて、後に「Yahoo!ニュース」に転載されました。これは、僕のその時の発言が注目を集めたからではありません。番組でしゃべった内容は、いつも掲載されています。

 その数日後、スマイルカンパニーの小杉周水社長から「松尾さん、ちょっと話したいことがある」と事務所に呼ばれました。ただ、この時点では、僕はまさかこのラジオ番組で話したことが理由で呼ばれたとは思っていませんでした。

ジャニーズ創業家との関係が深いスマイルカンパニー

松尾:ラジオ発言を問題視した小杉社長が僕のマネージメント契約を中途ながら終了したいと告げるのを聞き、「こういうことが呼び出される理由になるのか」と心から驚きました。

 小杉社長に「これ(ジャニーズの性加害問題について)どう思いますか?」と逆に聞き返したほどです。問題の本質は人権侵害だからです。ジャニーズは業界のリーディングカンパニー。社会的に良くないところがあれば正してほしい。

 

 小杉社長は、彼のお父様(スマイルグループ元代表、ジャニーズ・エンタテイメント元代表取締役社長、ジャニーズ事務所元顧問の小杉理宇造氏)の代から、ジャニーズの創業家(喜多川家・藤島家)とつながりがあります。

 僕は「ジュリーさんに直接お話をさせてほしい」と提案しました。

僕とジュリーさんは、ジャニーズのNEWSというグループがデビューする時に「ご意見を聞かせてほしい」とお声がけがあり、一度だけミーティングでジュリーさんとお会いしたぐらいで、ちゃんと面識があるというほどの関係ではありません。ただ、同世代の業界人として、一定以上のリスペクトは持っていました。 

 そんなジュリーさんの謝罪動画が十分な内容ではないと思ったので、彼女と直接話をさせてほしいと僕は小杉社長に言ったのです。そうしたら、「とんでもない」「つなげるわけないですよ」という反応が返ってきました。

 小杉社長は僕と同じ音楽プロデューサーでもあり、家族ぐるみで親しく付き合ってきた仲です。「え、なんで……。周水くんだっていいと思ってないでしょ?」と僕は聞きました。

 すると、彼は「松尾さんの言っていることは一つも間違っていないけれど、うちはジャニーズと長い付き合いがあるんです。分かってください」と答え、「僕だって、松尾さんにこんなことは言いたくないんです」と涙を流しながらマネージメント契約解除の弁を繰り返しました。 

 彼にティッシュを差し出す僕まで、思わずもらい泣きしましたよ。

話し合いで出てきた「フレンドファミリー」とは

松尾:小杉家と藤島家の関係について、彼は「フレンドファミリー」と表現しました。僕が「だったら、何でも言いあうものでしょう?」と聞くと、「僕たちの考えるフレンドはそうじゃないんです」ときっぱり返されました。

「長年の友達の良からぬ風評を耳にしたら、その真偽を尋ね、場合によっては正しい方向に進めるように手助けをする、それが友達だと僕は思います」と僕が言うと、「それは違いますね。そういうことには触れたりしないのがフレンドファミリーです」と小杉社長は答えました。

 

 藤島家、小杉家、スマイルカンパニーの金看板である山下家(山下達郎・竹内まりや夫妻)、この3家の間にある絆は、僕の定義するフレンドシップとは違うようです。スマイルカンパニーには15年間お世話になりましたが、遅ればせながら初めてそのことを知りました。

 小杉社長は「義理人情」や「御恩」という言葉を使いましたが、その前提にはやはりビジネスにおける関係性があります。

 僕は「周水くんはまだ若いし、これからの時間もたっぷりとある。この際スマイルカンパニーはジャニーズへの依存度を下げ、自社アーティスト育成重視へと体質改善を図るべきでは」とも提案しましたが、「僕は小杉家の人間なんです」と彼は答えました。僕なんかには分からない二代目経営者の気持ちがあるのかもしれません。 

一方で「達郎さんはどう思っているのかな」と疑問を抱きました。というのも、僕は1990年代に達郎さんとブラックミュージックを愛好する者同士として個人的に知り合い、彼に誘われてスマイルカンパニーに入ったという経緯があったからです。四半世紀にわたる長い付き合いであり、何より僕の少年時代からの音楽のヒーローでした。

 

──音楽事務所のスマイルカンパニーには、山下達郎さんや竹内まりやさんが所属しています。

 

松尾:僕の契約解除について、小杉社長は「達郎さんとは自分が直接話をする」と主張して話し合いは終わりました。社長によると、その後、面会した達郎さんは「松尾くんらしいね」と言い、僕をやめさせることに関しては「反対しない」と言ったそうです。

「本当に達郎さんはそう言っているのか」と疑問に思いましたが、直接電話をかけて確認はしませんでした。小杉社長が「この件は僕から達郎さんに聞きます」と言ったのを飛び越えるのは、ビジネスモラルに反すると思ったからです。

後にネットで「本当に山下達郎と交友があるのなら直接話せばいいのに」と交友関係を疑うようなことまで書かれ、閉口しましたね。ビジネスモラルを守ったら守ったで、そういうことも言われるのがネットの世界かと。 

誰も後に続かなかったエンタメ業界

松尾:後日、契約解除とともに、損害賠償請求までほのめかしながら、6月いっぱいでやめるよう迫る、極めて強硬な内容の文書が小杉社長名義で届きました。

 僕のスマイルカンパニーとの年間マネージメント契約が1月1日から12月31日までなので、半分の6月末だと切りが良かったのかもしれませんし、そのタイミングで達郎さんのツアーも控えていたので(※)、早くこの件を終えたかったのかもしれません。

※「山下達郎 PERFORMANCE 2023 」の初日公演は、2023年6月30日のさいたま市文化センターだった。
 

会社をやめることにはもはや躊躇はありませんでしたが、「こんな形でやめていいのだろうか」「最後まで達郎さんは何も言わないのだろうか」という思いが残りました。

 ただ、それでもやはり僕から達郎さんに直接電話をするのはためらいました。強硬なメールを送りつけてきたスマイルカンパニーに恐怖心のようなものを抱いてから、それ以降の連絡はすべて弁護士を通すようにしていたので。

 僕の弁護士からスマイルカンパニーの弁護士に、「山下氏は本当にこの契約解除に賛成しているのか」と最後の確認を取りました。すると、すぐに「そうである」という返事が届きました。6月も終わりのことです。潮時だと思いましたね。

そして7月1日、契約の中途終了に関してツイートしたのです。予想もしなかったほど、世の中はこれを問題提起として受け取ったようですが……。

 実は、6月の段階から、どこでどんな噂を聞きつけたのか分かりませんが、エンタメやメディアの方から「スマイル、やめるんでしょ」「謝りなよ」などと言われていました。でも、僕は突っ張っているわけではなくて、ただ提言をしただけのこと。「分かるけど、そういうことは言っちゃダメでしょ」と諭す方もいました。

 逆に「松尾くんの言う通りだよ」と賛同してくださる方もいました。でも、僕の前でしか言わないんですよね。皆さん、そういう時になかなか声を上げられないご事情があるのだと思いますが、これにも驚きました。

たまたま僕が最初にジャニーズ性加害問題に疑義を呈しただけで、やがていろんな方が声を上げていくのだろうと、当初は思っていました。でも、僕は「ファーストワン」じゃなくて「オンリーワン」だったというか、後に続いて声を上げる人はこの業界には見られませんでした。「エンタメ業界はこうなってるのか」という印象です。

 長い間この世界にいますけれど、もうちょっと自浄作用があるものだと信じていました。

論理性や整合性を欠いた山下達郎

松尾:7月に達郎さんが「サンデー・ソングブック」(山下氏のJFNのラジオ番組/TOKYO FM制作/全国38局フルネット)の中で、「松尾氏は……」という聞きなれない呼び方で僕とスマイルカンパニーのことについて語り、さらには故ジャニー喜多川氏への変わらぬ敬意を明らかにしました。

 7分間を超す長広舌は大きな話題となりました。もちろん、僕も時に言葉を失いながら最後まで聞きました。

 

 その時、僕がジャニーズを批判したことの他にも、何かスマイルカンパニーをやめさせられた理由があるかのような物言いをしていました。さも意味ありげに「ここでは言いませんが」と匂わせて(※)。

※山下氏は2023年7月9日放送の『サンデー・ソングブック』の中で、松尾潔契約解除に言及し「ジャニー喜多川氏の性加害問題に関して、憶測に基づく一方的な批判をしたことが契約終了の一因であったことは認めますけれど」「理由はそれだけではありません」と発言したが、具体的なその他の理由は語られなかった。

 

フ ェアじゃないと感じました。僕はシンプルにどんな理由があったのか知りたいし、言ってほしかった。そもそも契約解除を告げた小杉社長からは、そんなことは一度も聞いていなかったので。

「性加害が本当にあったとすれば、それはもちろん許しがたいこと」とも番組でおっしゃっていましたが、その後の記者会見でジュリー社長は性加害について事実認定をしましたよね。ならば達郎さんから番組の中でフォローアップのコメントがあってよさそうなものですが、僕の知るかぎり、以後ジャニーズ問題への言及は一切ないようです。

山下達郎さんは神格化されたミュージシャンとして、音楽界における確かな地位を数十年間にわたって維持してきました。これは大変なことです。

 その維持のために、テレビに出演しない、自作品のネット配信を拒むなど、自分は芸能界のしがらみとは一線を画した「音楽の職人」、ご自身の表現を借りるなら「アルチザン」(職人的な芸術家)というアーティストブランディングに余念がありませんでした。

 それが、まさか70代になって、ジャニーズとの不適切な関係性を問われ、これほど論理性や整合性を欠いてしまった姿を晒したくはなかったでしょう。

 今回の件では、趣味を生業にすること、それを続けること、守ること、それよりも優先すべきものがどこかで出てくるのが人生なのかなど、いろいろ考えさせられました。

弱者の眼差しを常に持ち続けてきた人なのに

──この一連の出来事の前年(2022年)に、山下達郎さんがリリースしたアルバムには、社会問題に対して意見を発していく必要性を歌った曲もありました。

松尾:そうです。「 OPPRESSION BLUES (弾圧のブルース)」。ストレートなリリック(歌詞)ですね。

 

──黒人の歴史を反映するブラックミュージックには、かなりメッセージ性の強い名作もたくさんありますよね。

松尾:おっしゃる通りで、基本的に弱者の側に立つ音楽です。虐げられたり、差別されたりする側のレベル・ミュージック(反抗の音楽)という側面があります。山下達郎さんも、ブラックミュージックのそうした側面にも惹かれてきた方です。

 

ご自身のフェイバリットとして、カーティス・メイフィールドの「There's No Place Like America Today」(1975年)というアルバムをよく挙げていますが、これはアメリカの社会的な偽善をアフリカン・アメリカンの視点から歌った作品です。

 

 また、好んでライヴで取り上げるマーヴィン・ゲイの「What's Going On」(1971年)も、ベトナム戦争に出征した弟から聞いた、戦地での悲惨な状況を基にした曲です。

僕の知る「山下達郎」は、弱者の眼差しを常に持ち続けてきたミュージシャン。そういった点からも、心から尊敬してきました。でも今は、「見事なまでの言行不一致」の人というのが率直な感想ですね。

 

 

──「音楽業界の片隅にいる私に、ジャニーズ事務所の内部事情などまったくあずかり知らぬこと。まして性加害の事実について知るすべはまったくありません」「ま、このような私の姿勢をですね、忖度あるいは長いものに巻かれているとそのように解釈されるのであれば、それでも構いません。きっとそういう方々には私の音楽は不要でしょう」という山下さんのコメントはネット上で炎上しました。

 

松尾:達郎さんは、「グルーヴィーな音楽」の創造に関しては戦後の日本における屈指の存在で、この国の音楽界のランドスケープを変えた方。「ミュージシャンズ・ミュージシャン」(同業者から支持されているミュージシャン)としても知られ、彼に心酔して音楽を始めた人はたくさんいると思います。

 それほどの方が、今になって、こういう態度を見せてしまうことになった。本当に考えさせられるものがあります。

 

松尾潔 @kiyoshimatsuo 2024/02/19 Twitter(現X)
ビデオジャーナリスト長野光さんの熱あるオファーにお応えして、長尺インタビューをお受けしました。YouTubeの動画とあわせてお目通しください。 #JBpress いまだにジャニーズの性加害を批判できない「哀れなるものたち」
 
《雑学亭閑話》
いやいや、ブラックミュージック・R&B・ソウル・ミュージックに影響を受けてないミュージシャンは、世界を見渡してみてもほぼほぼ、いらっしゃらないでしょう。あの、トランプ信者、カニエ・ウエスト(アフリカン・アメリカン、つまり黒人)は、ブラックミュージックそのものです。
しかし、トランプ信者なんですよ。
 
30年くらい前に聞いた「サンディ・ミュージック」(FM東京・山下達郎)は竹内まりやとの夫婦関係をファンからの「夫婦で姓が違うということは、内縁関係なんですか」という質問に「そんなわけないだろ!戸籍上はちゃんと同姓になってるんだよ」と、立腹気味に答えていました。
その時わたくは「ああ、山下達郎は夫婦別姓に反対なんだな」と思いました。多分、LGBTQも認めないのでしょう。日本に「多様性」はいらない。日本会議か?
 
安倍首相が辞任表明した2020年8月28日深夜、松任谷はニッポン放送「松任谷由実のオールナイトニッポンGOLD」で
「見ていて泣いちゃった。切なくて。安倍夫妻とは仲良し。同じ価値観を持っている」
 
山下達郎・竹内まりやも、松任谷由実と同じ価値観をお持ちなのでしょう。