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クドカン×TBS磯山晶「不適切にもほどがある!」は旧ジャニーズ出演ゼロでも物足りなさ皆無

2024年2月9日
今週と来週の2週にわたって、最近もっとも心を揺さぶった2本の新作エンターテインメントをご紹介したい。いずれも「 昭和 」「中学校」「音楽」が大きな役割をはたしている両作品だが、作り手の生年は、1968年生まれのぼくの2つ上と2つ下。まあ同世代といって差しつかえないだろう。

 まずひとつめは、宮藤官九郎(1970年生まれ)がオリジナル脚本を手がける阿部サダヲ主演のTBS 金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』。明日(2月9日)でまだ第3話ながら、すでに今クール最高傑作と評判なのでご存じの方も多いはず。 
阿部演じる小川市郎は、ザ・昭和のダメオヤジ。中学の体育教師にしてシングルファーザーの彼は、校内だろうが路線バスだろうが所構わずハイライトを吸い、パワハラ、セクハラをくり返す。そんな小川が1986(昭和61)年から2024( 令和 6)年にタイムスリップ。彼がまき散らす数々の不適切な言動が、コスパ、タイパ、コンプラが過ぎて窮屈な思いを抱える令和ニッポンの人びとを撹乱していく、という筋立て。阿部サダヲは当たり役。これで「今年の顔」になることは約束されたようなものだ。『不適切』は阿部サダヲの唯一無二の存在感ありき、とまずは断言しておく。

 宮藤ドラマお得意の特定の元ネタへのオマージュ、饒舌なほどの小ネタ使いは今回も健在。大いに笑える。だがそこはエモさとクールさを併せもつ驚異のドラマ脳の主クドカン、安直な「昭和あるある」に堕する愚は犯さない。むしろ昭和と令和のシーンをテンポよく切り替えることで、両方の時代の良いところとそうでないところを丁寧に相対化し、両論併記の絶妙なバランスを探ることに余念がない。その手際は、言うなれば1曲の中に複数のネタをサンプリング使用する手練れのDJのごとし。カラフルなサウンドを描きながらも、普遍的な美しさを備えた主旋律をすっきり聴かせる名人芸。きっと宮藤さんだけじゃなくて、制作チーム全体を評価すべきなんでしょうね。
 

磯村勇人と河井優美が出てくるたび、瞬きすら惜しいと感じる自分がいる

これも宮藤ドラマの常として、〈哀しみエキス〉を挿入する手間を厭わないのが心憎い。第2話まで観たところでは、秘密のエキスはまだひと刷毛塗るにとどめている感じで、ほろりと泣かせる程度。小川の娘・純子が非行に走る理由をさらりと告白する場面とかね。だが『俺の家の話』でもそうだったように、この後はぐっとギアを入れて催涙度をマックスまで上げるんじゃないか。こちらも「号泣する準備はできている」(はい、江國香織ネタのサンプリングです!)。

 宮藤さんは父親が中学教員だったという。人生で最も多感な時期を「教師の息子」として過ごした人なんだなあ。じつに興味深い。きっとこれからさまざまな悲喜が展開していくであろう『不適切』だが、ドラマの大前提となる「教師とその子」の心情の活写ぶりについては、第1話と第2話だけでもう十分すぎるほどに証明されている。
 

磯村勇人と河井優美が出てくるたび、瞬きすら惜しいと感じる自分がいる

名作の誉れ高い『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』『タイガー&ドラゴン』『俺の家の話』(以上いずれにも阿部は出演)同様、宮藤×TBS磯山晶プロデューサーが送り出す『不適切』だが、過去作品との決定的な違いは、主演はじめ出演陣に旧ジャニーズの顔が見当たらないところ。だがそれに物足りなさを感じる人は皆無だろう。ぼくもまったく感じない。それどころか個人的に嬉しいサプライズもあった。一昨年11月の本連載で『PLAN75』を同年のナンバーワン映画と書いたが、その時「両者名演!」と絶賛したふたりの若手俳優……磯村勇斗(なんと二役)と河合優実が、今回カップル役で出演しているではないか。ふたりが画面に出てくるたび、瞬きさえ惜しいと感じる自分がいる。チーム磯山からは吉田羊と仲里依紗も登板。演技でガチ勝負もすれば、和やかに唱和もできる。もう自由自在なのよ。

 あと、ストレートな会話劇から急遽ミュージカル仕立てに転換する構成にも不意を突かれた。しかもそこで歌い踊るのは、柿澤勇人、咲妃みゆ、木下晴香といった、この国のミュージカル界を代表するスターたち! 日比谷、有楽町エリアの劇場に足しげく通うような人たちにとっては、ちょっとした事件じゃないか、これは。

 

 

 

 

 

 

古田新太 versus 阿部サダヲ

 

 

《雑学亭閑話》
阿部サダヲという芸名は「阿部定」から来ているんでしょうか。宮藤官九郎とともに、劇団「大人計画」(松尾スズキ主宰)所属の役者ですから、それくらいはやりそうです。