ガンダム種、ディアミリより。
「大君がいないのに…、どうして貴方がここにいるのよ?!」
「…」
そう叫ぶと明美は遂に泣き出した。ずっと我慢していた彼女が、組織の尋問にも耐え抜いてきた彼女が、妹との電話でも気丈に振る舞っていた彼女が、初めて人に見せた涙だった。
床に崩れ落ちて肩を震わせ泣く彼女。それを抱き締める資格はバーボンにはない。その涙を拭いたいと、思わず伸ばした手は汚れている。だが放ってはおけなかった。俺は明美の幼馴染、数少ない大切な友達、組織から救い出し、幸せになって欲しい人なのだ。
「…明美…」
しゃがみ込んでそっと声を掛けると、涙でぐちゃぐちゃの顔を上げ、縋りついてきた。この哀しみを独りでは抱えきれる筈もない。だが誰にも言えない、組織に悟られる訳にはいかない。裏切られ捨てられて哀しいこと。それでも未だに、本当にあの男を愛していること。
明美は、俺がエレーナ先生を好きだったことは知っている。未だに忘れられずにいることも、それが組織を潰したい最大の理由だということも。
俺達は共犯者、秘密を共有する仲間だ。唯一傷を舐め合える相手だ。だから泣けば良い、俺の腕の中で。
今だけは、あの男の代わりでも何でもしてやるよ、お前の涙なんか、見たくないから…。