ギリシャ神話で、カサンドラという王女がいました。
カサンドラには予言の力がありました。
しかし、カサンドラは、太陽神アポロンの愛を拒絶したために、怒ったアポロンから
「誰にも予知能力を信じてもらえない」という呪いをかけられました。
これがカサンドラ症候群の「カサンドラ」の意味です。
カサンドラ症候群とは、
パートナーとの関係性に困難や辛さを感じ、周りにそのことを伝えても、「ぜんぜんいいご主人じゃない」とか「男ってそんなもんよ」などと言われ、周りからなかなか理解してもらえない状態
です。
それだけ、アスペルガー症候群とカサンドラ症候群を一般世間に伝わるように説明するのは難しいということでもあります。
一般世間でさえ、理解してもらうのが難しいのに、アスペルガー夫にアスペルガーやカサンドラを理解してもらうのはますます難しいと思います。
そこで、カサンドラに陥った妻は、なんとか周りの人に理解してもらいたいと考え、「発達障害のお墨付き」をもらいたいと考えるのです。
「夫は発達障害」というお墨付きをもらうことで、周りからの深い理解は得られなくても「発達障害の夫によって大変なおもいをしている妻」ということは周りに理解してもらえます。
もちろん、夫を受診させようと思うのは、「夫は受診すれば変わってくれるだろう」という思いもあります。
夫が発達障害であることを認め、発達障害の特性を理解し、特性は治らないけれど、「あっ、今、自分は特性が出ているんだな」と思えるようになれば、自分の生き方に対して修正がきくわけですから、それは妻にとってもアスペルガー夫自身にとっても喜ばしいことです。
ところがアスペルガー夫の中には
「俺が発達障害だとばかにしやがって」
と怒鳴ったり、
「俺がアスペルガーだと決めつけやがって」
などと言って受診しないケースも多いのです。
こういう夫には「困り感」がなく、今の生き方に満足している場合が多いです。
けっきょく本人が会社などで同じミスを繰り返したり、人間関係でつまづいたときに「自分は周りとちょっと違うのではないか」
と思い始めたタイミングで、本人が「受診してみようかな」と思うことが必要なのだと思います。
最近は精神科受診に対するハードルが下がってきていることもあって、若い人たちのほうが「自分は発達障害なのかもしれない」と
思って受診するようです。ただ、それより前の世代は、精神科受診に対して「おれはキチガイあつかいされたくない」と思って抵抗を示す人も多いでしょう。
精神科受診、そして発達障害の診断を夫が受けたとして、そこがゴールではありません。
夫は、どうしても出てくる特性とどう向き合っていくかを考えねばならないし、妻も夫から出てくる特性に対して我慢強く見届けていかねばなりません。
発達障害というのは、診断がおりたから夫の特性がすべて消えて、定型発達のようになる・・というものではありません。
ときにはアスペルガー者本人が良好な関係を築こうと意識したとしても、つい出てくる自分の特性に苦しみ、相手に迷惑をかけていることがわかっていても自分のことが止められない・・ということが出てくるものです。
なお、精神科受診は、あくまでも「本人が行きたい」と思うことが大事です。
周りから押しつけられて受診した場合、うまくいかないことがあっても「おまえが行けと言ったから行った」、「俺は発達障害なんだから周りがもっと配慮すべき」と他者責任する場合があるからです。