「驚かないの?」BCは坂田に聞いたが、彼はその質問に答えず、
「どんな名前がいいでしょうかね?」
「え?」BCは顔をこわばらせた。
「ココちゃん。どうでしょうか?」
「はぁ?何がですか?」
「名前ですよ、お嬢様の」
「なぜココちゃんなのですか?」BCは坂田の突拍子もない発言に驚いて、自分の質問がどこかへ飛んでしまった。
「気に入りませんか?では、チーちゃん」
「何から関連づけてそうおっしゃっているのですか?」BCは、どうせ答えはないだろうと思いながら、あきれ返って聞いた。坂田はすでに手を頬から外していた。そして優しく微笑みながら
「心という字から“ココちゃん”、知るという字から“チーちゃん”」
BCは予想していない答えに少し驚いた。でもなぜだか嬉しかった。名前があるというのが嬉しかった。しばらく微笑みながら下を向いていたがやがて顔を上げて笑顔で言った。
「普通、知ると言う字から連想するなら“シーちゃん”じゃない?」
「シーは音が悪いでしょう?」
坂田は“B”や”C”と同じ音を外したかったのだろう。そこから坂田の温かさを感じ取れる気がした。
「他にはないの?」
「うーん、今のところ即答できるのはその程度ですね。ご不満ですか? うーん、それならば一晩・・・」坂田がそう言いかけると、「待てない」とBCが体を前に乗り出して言った。
「え?」
「でもココちゃんはイマイチだと思う。チーちゃんが良いわ」
坂田は優しく微笑んでBCを見つめていた。いや、チェックしていた。BCの上半身全てを。BCの方は、坂田のその様子に気づかず、ただ嬉しそうに小さな声で新しい名前“チーちゃん”を何度か連呼していた。やがて、思い出したように姿勢を正して、坂田に同じ質問をした。
「では、先ほどの質問の答えをください。なぜ驚かないのですか?」
「昔からあります。そう、いつの時代にもあるものですから」
「というと?」
「たとば731部隊」
「731?」
「私も詳しくは知りませんが、日中戦争から太平洋戦争中に旧日本軍のBC戦の研究機関の下部組織だったと聞いています」
「BC戦?」
「貴方が言った Biological and Chemical weapons、そう生物化学兵器。人間に脳がある限りそいうことが起こりうる。でも・・・」そこで坂田は言葉を止めた。
「でも?」
「他にもあるでしょう?」
「他にも?」
「そう、例えばBritish Columbia(カナダ南西部の州)とか。これもBCですよ」
BCはくだらないと思うと同時に、坂田もそんなことを思ってもないくせに、という思いを込めてわざと呆れた顔をして見せた。
「それから・・・」
「それから?」
坂田はBCを見つめていた。二人の間に沈黙が流れたが、BCは坂田の言葉を待った。
「Blue cell」
「青い・・・細胞?」
「そして・・・」
「そして?」