坂田の答えに不快感がこみ上げるBC。冷静さを保とうと、まぶたを閉じて僅かな沈黙が流れる。坂田は席を立ち、部屋の隅にある観葉植物の前に移動した。植物の葉に顔を近づけながらBCを背にして話し始めた。
「チーちゃん。わかっているとは思いますが、私は“ここ”の人間ではありません。しかも、昨日初めて貴方に会いました。私が事前に得ている情報は・・・[ 年齢 12才、性別 女性、そしてIQが非常に高い。そんな子供の勉強相手をする ]それだけです」
BCは閉じていたまぶたを上げ、目の前の真っ白な壁を見つめていた。坂田は観葉植物に近づけていた顔を上げ、今度はカメラが背になる様に少し、立つ位置を変え、植物の葉を触りながら一度、チラッとBCを見てからさらに話を続けた。
「貴方に名前がない、貴方がBCと呼ばれている、それらは今日、知ったことです」
「でも、貴方はそれらを聞いても驚かなかった」BCは正面を向いたまま冷静に話し始めた。
「貴方が名前が無いと言ったとき、驚きましたよ。人によって驚き方は違います」坂田は優しく話した。
「BCについては?」
「生物化学兵器についてですか?それともBCの意味について?」
「意味についてです」
「言ったでしょう、私も知りたいです。つまり知らないという事です。だから色々考えている」
「なぜ知りたいの?」
「純粋に好奇心です。腹立たしいですか?」そういって坂田は腕を後ろで組み、BCの方へ体を向けた。
BCはしばらく坂田の顔を見つめていた。
「信じるも信じないも、私が私の目と意思で決めること、そう言いたい?」というBCの問いに坂田はただ優しく微笑むだけだった。BCは、坂田から視線をそらし、しばらく沈黙した後、再び視線をあげて
「いいわ。貴方の好奇心にかけましょう」そういって坂田を見た。
坂田は再び座席にもどり椅子に座り、「では、続けましょう」と言った。そして、テーブルに広げてある本の別のページを広げてBCに見せた。そこに出てきた言葉は“キメラ(Chimera)”だった。
“Blood of Chimera”


