Zarchery's fanciful story -11ページ目

Zarchery's fanciful story

Zarcheryが考える物語。ただしストーリは気が向いた時に書き、予告なく変更される。たとえそれがすでに公開されている内容だとしても。そんな物語をはたして貴方は読む気になるだろうか?
                 - Since March, 2007 -

「どうした?」携帯電話から男の声がする。

「やばそうなの」知色は夜道を歩きながら答える。

「今夜は非番だ。くるか?それとも・・・」

「行くわ」相手が言い終わる前に知色が答える。

「分かった。気をつけて」といって電話が切れた。

「気をつけて・・・ね」知色は独り言をつぶやきながら、この世の中で何を気をつけろというのか、と苦笑いした。電話をしながらすでに相手の家の方向へ歩いていた知色は途中の公園を横切ろうとした時、嫌な空気を感じた。『汚れた空気が二つ』心の中で、そうつぶやいた。そして暗くて視界の悪い場所でひとりが知色の前に、もうひとりは知色の後ろに立った。知色の前に立った男は明らかに防弾チョッキを着用しサングラスをかけていた。恐らく後ろの男も一緒だろうと思った。

「マナーが悪いわね。用があるならサングラスを外したら?」知色は驚くことなく、さめた口調でそう言った。

「あんたを知っているんでね。あんたの恐ろしさも」

「ご用件はなに?」

「あんたに来てもらいたい」といって男は銃口を知色に向けた。それに対して知色はサラリと

「ごめんなさい、今夜はこれから行くところがあるの」と答えた。すると後ろの男が

「ふざけるな」といって両腕を知色の首に回してきた。


        ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・


知色がチャイムを鳴らすと、男がドアをあけた。知色の全身をざっと見た男は背中を向け、部屋の奥へ向かいながら、「随分汚れてるな」と言った。

「ええ、やりたくも無い運動をちょっと」

「やりたくない運動なんて、なかなかできるもんじゃないだろう」

「ええ、普通はね。シャワーを浴びたいんだけど」

「どうぞ」

「何か着るものない?」

「クローゼットから自分で探して」

「まるで夫婦ね」

「婚姻届でも出す?」小さく鼻で笑った後、男は呆れたように、そう言った。

「遠慮しておくわ」知色は微笑んで見せてから適当に着替えを手にしてバスルームへ向かった。

知色はシャワーを浴びながら、公園で男が言った言葉を思い出していた。

「あんたがジェイジーなんだろう?」

知色は心の中でつぶやいた『JGって何?』



JGBCとは異なる別の物語です。平行してUPしていきますのでお間違えなく。


ヒロアキは、知色に写真を見せながら「このJGの意味分かる?」と聞いて顔を覗き込んた。

「何だと思う?」

「質問しているのは僕だよ」

知色は暫く黙り込んでグラスを見つめていた。長い沈黙。ヒロアキも暫くは黙っていたが、沈黙を待てなくなったヒロアキは知色にもう一度聞いてみようと思って顔を向けると、知色も同時に顔を向けたので言葉を飲み込んだ。

「いいわ。終わりにしましょう」

「え?」

「一つは貴方の質問の回答、もう一つは貴方の為の私ができる最大限のアドバイス」

「え?どういう・・・」とヒロアキの言葉を無視して知色は続けた。

「ジェイジー。それはジャパニーズガール。それだけのことよ」

「なぜ君の写真の下に?」

「私、日本人に見えないかしら?それは、単に私がジャパニーズガールだから」

「それって海外を意味している」

「ここからは、私から貴方へのアドバイス」

「貴方の知りたい答へはこの住所にあるわ」といって1枚のメモ用紙を渡した。そこには山形県の住所が書かれていた。

「これは?」

「そこへ行って自分の目で判断するのね。いい?それが“結果”なの。貴方がそれを理解して足を止めれば何も変わらない。でも、貴方が足を止めるのをやめないならその結果と同じになる。」

「言っている意味が全然わかんないなー。それって何?脅迫? 君は一体何もの?」

「言ったでしょう?多重人格者だと」知色は席を立ち店を出ようとした。それに気づいたヒロアキは諦めたように、正面を向いたまま尋ねた。

「他にアドバイスは?」

「不幸の産物は、不幸でしかない。さようなら」そういって知色は店を出た。

ヒロアキは知色から渡された住所のメモをただ見つめていた。店をでた知色は暫く歩くと黒い車が一台近づいてくるのが分かった。黒い車はスロー走行になり、知色の隣までくると窓が開き「どうします?」という男の声が聞こえた。

「彼は何も知らない。何も分かっていない」知色はいつになく鋭い目つきで前を見つめながら低い声でそう言った。

「でも・・・」そう車の中の男が言いうと、知色は相手を睨んでこう言い放った。

「許さない!命は尊い。無駄な血は流させない」

「わかりました。ただし、今のところは。分かっていますね?」

「分かっている」

黒い車は走り去った。知色は走り去る車を見つめながら、また自分の心の中にある大切なものを失うのだろうかと思った。そして携帯電話を手に取り電話をかけた。

「わたし・・・」



BCJGとは異なる別の物語です。平行してUPしていきますのでお間違えなく。


BCはすでに自分の部屋と呼ばれる場所に戻っていた。そう、勉強という名の実験をすっぽかすのは日常だ。恐らく、この建物にる多くの人間がBCを観察し、こうなることを想定している。

BCはメインの部屋の隣部屋にいた。メインの部屋のベットを背にして右手にあるドアの奥はかなり広い部屋がもう一つある。恐らくBCが生活しているこのベットある部屋とほぼ同じ大きさであろう。そこには本屋が開けそうなほどの書籍がある。BCはこの空間が大好きだった。部屋の片隅に木製の椅子が1つあり、そこがBCの定位置だ。BCは1冊の本をとり読んでいる。そう、それはジョセフ・ブラック氏の論文だった。ドアを開けたままこの部屋に入ってきたので隣の部屋で例のドアが開く“ウィーン”という音が聞こえる。BCは誰が入ってくるのか想像できた。“あの人”だ。

彼はBCのいる書籍の沢山ある部屋に入ってきてこう言った。「どうして、いつもああいう態度をとるんだ?」

BCは本を読むのをやめ、彼の顔を見ながら「どうして私を観察するの?」

「それは君が子どもだからだ。それに観察じゃない、見守っているんだ」

「なぜ子どもは観察されるの?私だけでしょう?」

「観察じゃない。ただ、君は僕の大切な子だから見守っているんだ」

「大切って何?時々注射したり、レントゲンをとったりするのはなぜ?」BCは彼と話をする時だけは、いつもより子どもっぽい、いや本来の子どもらしいといった方がいいかもしれないが、そういう話し方になる。

「健康をチェックしているんだ。いいかい?君は特別なんだ。大事に育てなきゃならない」

「言っている意味がわからない」

「それは君が子どもだからだ」

「私のお父さんは?お母さんは?」

「何度も言っているじゃないか、僕が君のお父さんだ。お母さんは別の世界に行ってしまったんだ」彼はBCの足元にしゃがみ込みながらそういった。

「別の世界って?死んだってこと?」

「いいかい、いつも言っているだろう、それは大人になったら話すよ」

「いつ?」

「うーん、そうだな、20歳を迎えたら話そう」

彼は立ち上がってBCの頭をなでた。そして思いついたかのように

「そういえば、昨日、何か変わった事はなかったかい?」

「変わったことって?」BCは自分の心臓の音が聞こえそうな気がしたが、必死に平静を装った。

「昨日、大きな地震があっただろう?大丈夫だったかい?」

「うん」彼の目を見ながら頷いた。大丈夫、彼は疑っていないと思った。

「そうか、それならいいんだ。ああ、明日は新しい人が勉強を教えてくれる」

「どんな人?」

「どんな人かな。ただ、お父さんよりも年上の人らしい」

「老人?」

彼はBCの質問を無視してこう言った「明日はちゃんと勉強しなくちゃだめだぞ」

BCは自分の質問が無視された仕返しに返事をせずに本に目を向けて読書を始めた。それを見て彼は仕方なさそうに部屋をでて行った。BCは思い出していた。昨日の出来事を。心の中でつぶやいた『変わったこと?それは変わったことなんていう次元じゃない。あの人は私のお父さんじゃないし、あそこで見た“あれ”は人間じゃなかった。絶対に。』恐怖心がBCを覆い、思わず目を瞑った。『私は何を考え、何をすべきなのだろう。私は、私は・・・』



知色がヒロアキに会うのは今日で4度目。1度目は隣に座ることも会話をすることも無かった。ヒロアキはひとり、このバーのカウンターでグラスを傾けながらただ何かを考えているようだった。それは普通のことといえる。ただ何かが不自然だった。ヒロアキの席から少し離れた所に座っていた知色はそれを肌で感じていた。何をといわれた分からない。ただ何かを感じた。本能的なものかもしれない。ヒロアキより随分前からバーに来ていつもの時間を過ごしていたが携帯が鳴り、“例の仕事”が入った為、店を出た。その時、ヒロアキは知色に顔を向けて目が合った。というより、ヒロアキが意図的に知色に目を合わせたのを感じた。彼はただ微笑むだけだった。

2度目の出会い。知色はいつものようにバー「4」で飲んでいた。店に入ってきたヒロアキは声をかけてきた。

「やぁ」と笑顔で知色のそばに立ち、「ここ空いてる?」と聞いた。

知色は相手の顔を見ずに「ええ。どこかでお会いしたかしら」と言ってみた。

「うん、先日ね。でも正確には僕が君を見た、ってだけだから。目が合ったんだけどね・・・ま、いいか」

「そう」

「僕はヒロアキ、君の名前は?」

「ちいろ」

「ちいろ?どんな字を書くの?」

「誰かと話がしたいのなら、そういうお店を探したらどう?」

「あの・・・さ、ここ座っていいって言ってくれたよね?」ヒロアキは一瞬言葉に詰まったが、戸惑いながらもすぐに切り返した。

「席が空いているか、と聞かれたから、空いていると答えた」

「座っていいんだよね?」という言葉に知色は笑ってしまった。

「何が可笑しいの?」とヒロアキがたずねると

「誰も座ってない席よ、空いている席。私の許可が無くても座ることができるわ」

こんな会話から話が始まった。しかし、知色の冷たい対応では話が広がるわけはなく、2人の距離は全く縮まらなかった。

そして3度目は知色の勤める会社、ブルーラインのロビーで。知色がロビーの打合せコーナーで客と商談中の時に、ヒロアキは別の会社の人らしき人物と話をしていた。ブルーラインのあるビルは自社ビルではない。幾つかの会社が入っているのだ。だからロビーは共有スペースとして利用している。商談が終わり、エレベータに戻るとき、ヒロアキがこちらに向かって歩いてきた。「別人みたいだ」ヒロアキは微笑んでいたが知色は睨んでいた。

「にらまれる覚えは無いんだけどな。ちょっと時間ある?」

「何か御用ですか?」

「いや、別に用があるわけじゃないんだけど・・」

「御用が無いなら失礼させいていただきます」知色は頭を下げてエレベータに向かいエレベータの前に立つ。

「えっ、ちょっと、ねえ」ヒロアキは慌てて知色の後を追って声を掛けたが、エレベータのドアが開き、乗り込んだ知色は満面の笑みで「失礼します」といい、同時にエレベータのドアが閉まった。


そして、今日が4度目の出会いとなる。

知色はさめた態度でたずねた「バーの写真と私の写真、それで?」

ヒロアキはテーブルに二枚の写真を置き、知色に見せた。

1枚はバーのカウンターに座る知色の写真。その写真の下には黒いマジックで「JG」と書かれていた。


「うーん。いいよ、許容範囲」ヒロアキは笑顔で答えた。

「1秒よ」と、知色は言った。それは知色が「多重人格者」だと言ってからヒロアキが答えるまでかかった時間だ。そしてこれは、彼女のささやかな優しさからでた言葉だった。

「え?」

「考えないの?」

「考えた」

「みつめ合えない」知色はいたずらな目でヒロアキをみる。

「みつめて欲しかった?」

「探偵の仕事って大変ね」知色はすでに別人のように切り替わっていた。冷めた口調だった。

ヒロアキは平静を装って知色の目をみながら「君はビックリ箱だね」と答えたが内心、非常に驚いていた。なぜなら、彼女に自分の職業について話した覚えはないのだから。

「つまらない」

「玉手箱の方が良かった?」そう答えるのが精一杯だった。

2人の間に僅かな沈黙が流れた。ヒロアキはグラスを手にして一口飲んだ後、やっと口をきいた。

「いつから?」

「確信したのは、さっき」知色は相変わらずグラスをみつめたまま。

「予想はしていた、と?」

「可能性の一つとしてね。でも貴方も予測していたでしょう?こうなることを」知色はヒロアキの顔をのぞいた。

ヒロアキは口元を少し上あげて「こんなに早くに見抜かれるとは思ってなかった」と、自分に呆れたように苦笑いをした。

「その目よ」という知色の言葉に

「え?」と、ヒロアキは聞き返した。

「目が観察している、探っているって言ってるわ。そして許容範囲が広い」

「そういう人間もいる」

「1秒の決断は早すぎる」

「以後、気をつけるよ。でも、ここで立ち去るわけにはいかないんだ」

知色は返事をしなかった。

「北星新聞社の山下という男の行方を追っている」そういって知色の顔を見たが、彼女はグラスをみつめたままなので話を続けた。「山下は、なにやら謎に満ちた機密機関について調べていた。ただ、その機関が実在するのか、一体何なのかは誰も知らない。新聞社の方も彼の足取りを調べたようだが見つけられなかった。いくら調べても何も出てこなかったらしい。彼が行方不明になってからすでに1ヶ月が経つ。で、依頼を受けた。彼の会社で机の引き出からマッチを見つけた。“4”、そうここのバーの」

ヒロアキは知色にマッチを見せた。

「マッチは4つあったんだ。で、この店の従業員に聞いたけど誰も知らないという」

「じゃあ、来なかったんじゃない?」知色はわざとそう言った。

「いや、それはない」ヒロアキは彼女の目を見た。

「どうして?」面倒だな、と思いながらも、知色は首をかしげてみせる。

「写真があるんだ」

「写真?」

「そう、この店の店内の写真。そして君の写真がね」


By:Zarchery

仕事を終えた知色は、とあるバーにいた。店の名前は「4」。重厚なドアに金色で“4”と書かれているそのバーは知色のお気に入りの店だ。僅かな光の中でカウンターに座りグラスの底を使って弧を描くように転がしながら、ゆっくり何かを考える。知色のいつものスタイルだ。バーテンダーは先ほど知色にアップルマティーニを用意し、奥に僅かにあるテーブルに座っている客の注文の品を作っている。知色はバーテンダーがカクテルを作りながら奏でる音が好きだった。そう思いながら手元のグラスを口元へ運ぶと、バーのドアが開き、客がひとり入ってきた。その客は迷わず知色の隣に座って「ようっ」と言った。知色は顔を動かさず、目だけをチラリとそちらに向けただけで返事をしなかったが、それがいつもの彼との挨拶だった。

知色のリアクションに対して「相変わらず冷たいね」と、ヒロアキは言った。

知色はグラスをみつめたまま「それを求めてないでしょ」と、非常に低いトーンで言う。

彼女はこの男の呼び名がヒロアキだということは知っているが、どういう字を書くのか知らない。聞きたいとも思わなかった。

ヒロアキは鼻で笑いながら「ブルーラインにいる時とは大違いだな」といって知色の方に顔を向けた後、バーテンダーに向かって注文をした。

「今はブルーラインの時間じゃない」

「へぇー、“今はプライベートな時間”とは言わないんだ。というか、言えないのかな?」

「女でもないのにバラの花みたいね」知色はようやくヒロアキに顔を向けて嫌味な微笑を作った。

「それって防御? トゲを持参したつもりはないんだけど」

「で、ご用件は何かしら?」知色の顔から笑顔は消えていた。

ヒロアキは微笑みながら「特に用が無いと言ったら、君はまた背中を向けるんだろ?」

知色は返事をせずにグラスをみつめたまま。

「うーん・・・君と話をしたい、君を知りたい。これが僕の用件っていうのはどうかな」

「つまらない用件だこと」

「それって、僕を受け入れてくれたってこと?」

「受け入れる?誰が?私は誰も受け入れない」

「君は一体どんな人?」

知色はこの質問が気に入ったのか声を出して笑いながら「多重人格者」と言って、ヒロアキの目をみた。


By:Zarchery

JGBCとは異なる別の物語です。平行してUPしていきますのでお間違えなく。


黒いパンツスーツをかっこよく着こなしているのは“心美真 知色 (ここびま ちいろ)”、それが彼女の名前である。彼女はコンピュータシステムの会社であるブルーラインという会社に勤めている。今年30歳を迎える彼女は出世コースまっしぐら。というより、知色自身、特別何かを頑張った記憶はないのだが、なぜか部長という役職のもと、オフィス内のパーティションで仕切られた幾つかの個室に近いエリアのうちの1つを占領している。椅子に座ると机の上に1台のノートパソコン、トレイ、そして向こうに人が1人座れるほどのスペースが開いて半透明のパーティションがある。左側も同じようにパーティションで仕切られているがこちらは色つきで隣が透けて見えないうえに、机とパーティションの間に天井まで届きそうなロッカーがパーティションいっぱいに、占領しているので圧迫感を感じる。ロッカーの一番窓側よりがコートをかける細身のロッカーでそれ以外は全て資料を収納する為の物だ。資料といっても全てCDやMDなどのデータが大半を占めているが。右側は壁だ。机の前の半透明のパーティションは壁から人が2人ぴったり並んで歩く程度のスペースだけ存在しない。つまり、そこが出入り口となる。そして椅子の後ろには大きな窓が1つ。それはちょうど知色のスペースと同じ大きさの窓だ。その窓辺の端に2つのさほど大きくない鉢植えを置いている。その植物の名前は分からない。調べれば簡単にわかることだが、特別必要を感じないので調べてない。

半透明なパーティションにスーツ姿の男性らしきものが写った。知色は歩き方で誰が来たのかが分かった。男は右側のパーティションが切れている部分に立ち、「失礼します、少し、お時間宜しいでしょうか」と言った。

「どうぞ」と知色が答えると男はパーティションの内側に立った。

「何をするおつもりかしら?」と知色が尋ねると、

「先日のA社向けの新しいシステム概要について簡単にご説明させて頂きたく・・・」

「その左手に持っているものは何かしら?」

「パイプ椅子です」

「ええ、見れば分かるわ。その上にたって演説でもなさるおつもり?」

「あ、いえ、これは自分が座る為の椅子です。座ってお話しようかと思いまして」

「メリットは何ですか?」

「あ、えっと・・・すぐ終わるんです、すぐ終わるんですが安心するからです。椅子に座って説明した方が安心するんです」

「分かりました、どうぞ」知色は優しく微笑んで見せた。

男は資料の一部を知色に渡し、パイプ椅子を知色のデスクの前にセットし説明を始めた。

知色がこの男と会うのは今日で3度目となる。28歳、“安森 力(あもり ちから)”。一ヶ月前に中途採用され、知色の部下となった。知色はこの男が嫌いではない。なぜなら・・・。

彼女にとってこの職場は“隠れみの”。その隠れみのでちょうど良い遊び相手を見つけたといったところだろうか。知色のもう一つのビジネス、そのビジネスとのバランスをとるのに必要な要素の一つとして。もう一つのビジネス。いや、これこそが知色の本当のビジネスといえるだろうか。しかし、それは常に本人の意思を無視して依頼され過酷な労働条件での仕事となるのだが。


By:Zarchery

BCは白衣の男の隣に座りながら質問した。

「土星はなぜ暖かいのですか?」

男は目を丸くしながらBCとほぼ同じ言葉を繰り返した。

「土星はなぜ暖かい・・・か?」

「はい、土星は太陽からの平均距離が地球の約10倍あるといわれ太陽から受ける光の量は地球の100分の1しかないそうです。そうすると、計算上は上層1500~2000キロメートルの土星大気温度はマイナス120Cほどになります。ですが緯度30度付近では130Cに達しているそうです。なぜですか?教えてください」

BCは、そう話しながら自分の不機嫌さが体の外へあふれ出ていると感じた。白衣の男が戸惑っているのは十分理解できた。しかし自分を止められなかった。

「分かりました、結構です。私は今日、ジョセフ・ブラック氏の論文を読みたいと思っています。ご準備いただけますか?」

「ジョセフ・・?えっと・・」

「ジョセフ・ブラック。二酸化炭素を発生させた科学者です」

「いや、あの・・・12歳の子が読むものではないかと思うのですが」

「その根拠は何ですか?規則ですか?」

男は完全に言葉を失った。

「動物界、脊索動物門、脊椎動物亜門、哺乳類網、サル目、ヒト科、ホモ属、そしてサピエンス」

男の非常に小さな「え?」と言う声が聞こえたがBCは男の顔を見ずに白い壁に向かってこう言った。

「ヒトを階層分類した場合、の話です。学名、ホモサピエンス」

「あ、あの・・・ 今日はその・・・」

BCは男の方に顔を向けてたずねた。

「私は何でしょう?私はヒトでしょうか?」

それは彼女が本当に聞きたいと思っていた質問である。


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ウィーンという機械音とともに"窓"と呼ばれる場所のすぐ脇にあるドアが横にスライドする。ドアの向こうにいる白衣をきた男は言う。

「お嬢様、お時間です」

長身で細身の男は20代前半といったところだろうかと推察できた。BCを迎えに来るのは大半が初めて見る顔ばかりなのだ。

BCは返事もせずに扉に向かう。そして迎えに来た男に連れられドアを出る。ドアをでるとそこには2人横に並んで歩ける程度の幅の廊下が長く真っ直ぐ続いている。真っ白い壁、真っ白い床、真っ白い天井、そして音のない静かな世界。"歩く"とういう動作で生じる音だけがこの空間を満たしている気がする。なぜ、この床は汚れ一つないのか?なぜ、ここの壁は傷がないのか。それは掃除をしている、というレベルではないと感じられるほど真っ白なのだ。一体どんな素材でできているのだろうと思う。"彼ら”にそうたずねると、「理由はありません」というお決まりの回答が返ってくる。まるで会話にならない。そして今日も同じ質問を投げかけてみると、今日の男はこう答えた「まあ、いいじゃないですか。」今日の男は、恐らく今までで一番知能が低いと推測する。


この通路の壁にはたくさんのドアが存在するが、BCの部屋と同様、どの部分がドアなのかを識別するのは容易ではない。一見すると、ただの壁にしか見えない。しばらく歩いていくと1メートル先辺りだろうか、突然白いドアが例の機械音とともに開た。センサーが反応するのだろう、自動的にBC達を感知し近づくとドアが開く仕組みになっている。そして真っ白い正方形の部屋に入る。それにしても色がないということはとても苦痛だとBCは思う。部屋の真ん中に大きなテーブルと椅子が2脚、テーブルの上にはパソコンが1台、そしてテーブルのすぐ横に小さなホワイトボードが1つ置いてある。ドアが閉まると同時にどこからともなくクラシックが流れ出す。今日はモーツアルトのようだ。白衣の男が口を開いた。

「今日の勉強はサイエンスです」と。

「勉強?ですか?」とBCが問うと「そうです」と返す。それに反発するように

「実験の間違えではありませんか?」

「実験?何の実験ですか?」

BCは今日の自分が非常に機嫌が悪いと感じながら口を開いた。

「私の、です」

「では始めましょう」と言う男の言葉にBCは苛立ちを覚えた。


By:Zarchery

BC、それはコードネーム。最初は気づかなかった。でも点と点を結べばいずれは線に。とても簡単なこと。そして"この建物”の中にはBCと同じようにコードネームをもつ“生命”がある。この建物・・・ゆがんだ世界だとBCは思う。「ゆがみ」それを辞書で調べると、【ゆがんでいること。曲がっていること。ひずみ。よこしまなこと。不正。心が正しくないこと。】といった文書を読み取ることができる。BCはこのゆがんだ世界から一度も外へ出たことが無い。つまり“この建物の世界”はBCにとって標準となる。ならばなぜ、「ゆがみ」を知っているのか。それは文字のレベルではない。単に“見てしまった”のだ。ゆがんだ世界の中でさらなるゆがみを。そして同時に「本能」という言葉の意味を身をもって知る。BCは思う、あの瞬間の感情は自分が生きているという事を実感できるものだったのではないかと。

さて、そろそろ時間だ。BCの意思では決して開けることのできない、あのドアが開くであろう。あのドアが開くとき、それは憂鬱な時間の始まりである。


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