※相変わらず長文で候。そして、ネタバレか否かは読者の自己責任なのであしからず 



 シネマ#53 

& 

《シネマ介護入門》

 ・救急処置と其の後のケア

 ・死への倫理/遺族との対応etc 


 『旅立ちのラストダンス』 


 in静岡サールナートホール


 監督/アンセルム・チャン


 出演/ダヨ・ウォン●マイケル・ホイ●ミシェル・ワイ●チュー・パクホンetc 


 2026年/香港 







 採点/84点




コロナ禍の影響をモロに受け、多額の負債を抱えてクビが回らず、泣く泣くウエディングプランナーを廃棄した男が、知り合いのツテで、真逆の葬儀屋へ転身する羽目になり、人生の再出発を図る物語。


時代の流れに振り回された挙句、家族の為に、葬祭業に挑むサクセスストーリーは、云わば、香港版《おくりびと》かな?との程度で気楽な了見で劇場へ出向いた反動も働き、気付くと不意に泣いてしまった。


率直に、素晴らしい映画だ。


香港では、古くから継承される伝統儀式《破地獄》の道士と共に取り仕切るのが慣わしである点が大きな特徴となっている。

よって、遺族への対応は、葬儀屋が、
死者の旅立ちは、道士が、
それぞれ主導で、責任を持ち、行う完全なる分業制が確立しており、かつ、相棒として二人三脚で常に事業として成立させ、進めなければならない。

日本の住職と檀家と葬儀屋との関係と全く異なる事情は、主人公同様、当初、大いに戸惑うが、御国柄で伺える死生観が今作自体の魅力へと繋がってゆく。

時代の変化で求められるニーズに、両者は、絶えず衝突を繰り返し、困難を極め、つまり、死からドラマ性が産まれるからである。

対立の根本である頑固な破地獄の達人・マン師匠を演じたのが、かつて『Mr.BOO!』シリーズで引っ掻き回した喜劇王●マイケル・ホイだったのは、とても感慨深い。

さすがに、広川太一郎が憑依するようなドタバタは繰り広げないものの、昔気質で偏屈やけど、憎めないキャラは健在で、ビジネス有りきで運営しようと目論む葬儀屋との口喧嘩は、不謹慎と承知でも、失笑したくなる場面に幾つも出逢った。

葬儀屋にも、葬儀道士にも、当然、愛しい家族が居て、分割し、共有してきた《生と死》の立場が揺らぎ始め、痛みが混ざり合う。

物語も笑いから涙へと切なく移行してゆく。

それぞれの価値観・責任感で人生を見つめ直さなければならない分岐点をお葬式と云うイベントで産み落とす皮肉な現状に、常に生死と向き合う介護福祉士として、両親を看取った遺族として、生きてきた自分を、いつの間にか銀幕に重ね合わせてしまった。。





確かに死ぬのは辛いけど、年老いどんどん衰えていく親を支え介護しなければならない残された家族の生活はもっと悲惨な地獄絵図である。

苛立ちや苦しみからどう切り抜けていくべきか?

まさに、生きるべきか死ぬべきか。。。

其の問題を孤独に悩む必要は無い。

必要なのは、見送る覚悟と分かち合う心だけである。

あとは、少々のお金もだが。

改めて、流す涙に学んだ貴重な午後なのであった。

では、最後に短歌を一首

『淵煙る 道ぞ辿りて 破地獄の 黙し越す春 廻る身仕度』
by全竜