趣味と健康を兼ねてウオーキングをする人間にとって、程良く汗ばむ今頃が最適なコンディションなのかもしれない。


 日課の延長で、休みの朝にトボトボと電車を乗り継ぎ、毎月恒例の清水の老舗蕎麦屋 

『ふるさと』 

ヘ出向く。 




 いつも、汗だくの喉カラカラ&朝メシ抜いて腹ペコ状態で暖簾をくぐるから、大将や仲居さんとの挨拶も雑に交わすや否や、
『静岡麦酒と、おまかせで♪♪』
と頼み、いつものカウンター席に滑り込む。 




 故に、一杯目の静岡麦酒は、談志師匠への乾杯もおろそかに、其のままイッキに呑み欲してしまった。 


 チンカチンカに冷えた苦味がハラワタに染み入る。

仕切り直しに、静岡麦酒をお代わり。

改めて、家元に参拝したら、5月の独りふるさと会の幕開きと成る。


 トップバッターは、お馴染み

 ①『地魚の刺身盛合せ』


 初夏の布陣は、

 《倉澤アジ・サワラ・ヒラメ・バチマグロ・厚焼き玉子》

 と豪華なラインナップが鮮やかに集う。




 でも、訪れた際の大人気ない私の仕草に大将も呆れたのか、いつもは風格漂うリッパな器で盛りたてるのだが、イタズラ心を発揮して、お子様用のワンプレートに乗っけてきたので、思わず笑い合ってしまった。


 厚焼き玉子がホンノリ甘いタイプやから、尚更、お子様ランチみたいで愉快である。

しかし、サワラにはサッと炙りを加え、ヒラメにも昆布〆で、ひと手間掛けて、あつらえており、お子様の舌には、勿体無い仕上がりで、出だしから恐れ入ってしまう。

汗をかいて必死に辿り着いた甲斐があった。

続いては、此方も同じくお馴染みの揚物ゾーンへ。

今回は、
②『カサゴとヒメジの唐揚げ』
がコンガリと登場した。




下味がシッカリ付いているので、其のまま豪快に頭っから丸かじりする。

芳ばしく海の旨味が弾け、ビールが進むテンポが拍車をかけて、嬉しくも困ってしまう。



ヒメジは、旨味がバツグンな反面、下処理がタイヘンなので、敬遠されがちな魚として知られるが、今が旬なので、丁寧に仕込んでくれたと聞き、改めて恐縮する。

二杯目のビールを呑み干し、マイタンブラーグラスにハイボールを注いでもらう。

品書を覗くと、駿河湾の旬の華・桜海老が推してあり、仲居さん達もお客さん達に、力説してプレゼンしていので、次辺りに来るかなと期待して待っていると、贅沢に
③桜海老を生で提供して頂き、驚く。



何もかけず、其のまま味わうと、豊潤なる甘味がストレートにトロけ、官能的に我が細胞に溶け込む。

近年の不漁危機は何とか脱しているものの、まだまだ高嶺の華なので、つくづく感謝するばかりだ。



4品目は、更に本領発揮し、
④『天ぷら盛合せ』
が登場。



ラインナップは、とうもろこし・生桜海老・コシアブラ・真鯛の白子と、刺し身にも負けず劣らず豪華絢爛な品揃え。

甘味爆発のとうもろこしのかき揚げ、ミルキーな旨味が溶解する真鯛の白子を両脇に、生桜海老のかき揚げが満を持して舞台を征する圧巻の貫禄を目の当たりにすると、先程の生桜海老が何と贅沢な前フリなんやと、声無き唸りを挙げる己に気付く。



跳躍する磯の芳ばしさに暫し、時の流れを忘れた。

ハイボールをお代わりし、幸福に浸っていると、5品目に地元の名物
『⑤興津鯛の日干し』
を焼いて、お披露目。



古来より、由比が鯵ならば、隣の興津の看板は、何と云うても、鯛なのだ。

太陽の恵みを目一杯浴びた全身から、駿河湾の魅力が惜しげもなく凝縮し、箸が止まらなくなる。



ハイボールで食欲のスピードを調整したい心持だが、案の定、早々と呑み干してしまった。

すかさず、ハイボールをお代わりすると、いよいよおまかせコースは、後半戦へと突入するのである。


後半へつづく