※ネタバレか否かは読者の自己責任なので、あしからず
シネマ♯3
『アイアンクロー』
in新静岡セノバ
監督/ショーン・ダーキン
出演/ザック・エフロン●ハリス・ディキンソン●ジェレミー・アレン・ホワイト●リリー・ジェームズ●ホルト・マッキャラニーetc
プロレス監修/チャボ・ゲレロJr
2023年・アメリカ
採点/81点
久々の日曜休み。終日、実家でゴロゴロ過ごしたい了見だったが、昭和プロレス好きの血が騒ぎ、早起きして、朝9時には劇場へ降り立つ。
早朝シネマ観賞と云うよりも、早朝プロレス観戦の心持が強い、
レジェンド・プロレスラーがスターの座に就き、成功を掴んだものの、プライベートでしくじり、転落していく栄枯盛衰を描いた傑作では、未だミッキー・ロークの『レスラー』が強烈に印象に残っている。
しかし、今作は、実在したプロレスラーの親子の波瀾万丈に迫るプロレス大河ドラマなので、ゴングで幕開けするマクラから趣が大きく違う。
タイトル通り強靭な腕で相手の顔面を掴み、握り潰そうとする必殺技アイアンクローを炸裂させ、《鉄の爪》の異名で恐れられたフリッツ・フォン・エリックを父に持ち、チャンピオン誕生を課せられに育てられたケビン、デビッド、ケリー、マイクの4兄弟から織りなすファミリーの悲喜こもごもは、プロレス絵巻を楽しむ者としては、一族の行く末は演出として割とポピュラーなエッセンスであり、古くから確立している。
テリーとドリーのファンク一家しかり、ビンス・マクマホンファミリーしかり、日本では力道山の百田家しかり、橋本真也、佐々木健介etcetc
多くは、一族の結束よりも、後に露わとなる醜聞がキッカケ(大概がカネ絡み)で衝突し、崩壊していく痛々しさが醍醐味と化しているが、フォン・エリック一家でも例外ではない。
だが、此の一家の場合、重苦しく、娯楽とは程遠い悲劇が続き、観るのが辛くなってしまう。
絶えず地味な印象で陰の空気圧が強くなっていくのは、対立する以前に、支えるべき兄弟達が非業の最期を遂げてしまうため、《呪い》の意味合いがセメントと化すからである。
自虐ネタで済まなくなると、不幸がシャレにならないまま畳み掛けてゆく。
実際、家長エリックが日本プロレスで繰り広げたジャイアント馬場との死闘は、リアルタイムではほとんど知らない世代であり、ブルーノ・サンマルチノとゴッチャになるぐらい馴染みは薄い。
むしろ、後年、デビッドが全日参戦中、急死した衝撃的ニュースの方が、歴史に残っているのは、皮肉な悲劇と云えよう。
故に、其の事件や、ハーリー・レイス、リック・フレアー、ザ・シーク、ブルーザー・ブロディ、テリー・ゴディ、デッド・デビアスetcファミリーに立ちはだかるレスラー達の登場に感心が移ってしまうから、自分が情けない。
でも、最後まで面白く見届ける事ができたのは、葛藤する家族の揺れ動きが克明に描き出されていた濃密な人間ドラマに尽きるだろう。
プロレスは、父が常に叫ぶ様に、格闘技スポーツの頂点であり、同時に、兄弟達が模索するエンターテイメントのトップでもある。
つまり、喧嘩と娯楽との矛盾した狭間で、如何に、強い自分を売り出し、客を呼んで稼いでゆくかを死ぬまで考え、試合を湧かせていかなければならない。
プエルトリコで仲間に刺されたブロディが通称《哲学獣》だったのが、若き日の兄弟との交流を前に思い出したのは感慨深いマッチメイクと云えよう。
夢と現実に呑み込まれては、もがき苦しみ、やっと掴みかけたチャンスも、王者輩出を重く課す父からの重圧や、怪我、団体を運営するための金銭事情などシビアな問題が、問答無用で心身にのしかかり、潰してゆき、兄弟がまた一人、去ってゆく。
総てを失って孤独に陥った時、
「自分はこれまで一体、何と戦い、勝って、何を得てきたのだろう」
と、答え無き今を思い知らされるのである。
近年、真壁刀義とか蝶野正洋etc憎っくきヒールレスラーも、現役中でもバラエティ番組に笑顔で出演し、愛機を振り撒いている姿を多く見かけ、プロレスも良い意味合いで演技や、オン・オフの使い分けが一般視聴者でも把握できている環境に変化している。
当時の強くて、たくましいプロレス王者として求める理想像が多様化していたら、兄弟達は、もっと楽しくハツラツとプロレスに打ち込めたのではないだろうか。。。
と歴史モノ特有のifを独り抱えながら、ふと思った。
故に、大オチでの実際の一家の現状報告に、救われた気持ちとなってエンドロールを眺め、涙する己に気付く。
プロレスはやはり、娯楽の王者であり、人間は、強い男に常に憧れる生き物なのだ。
久し振りにBS朝日で、新日本プロレス中継を観たい衝動に駆られた春の昼前なのであった。
では、最後に短歌を一首
『血の絆 摑んだはずの 掌に 愛は溢れて 神を呪えど』
by全竜
好きな相棒・名コンビといえば?
▼本日限定!ブログスタンプ