横浜。
休日は、英会話に通っています。
英会話の前は、カフェで予習するのが習慣です。
スタバ、ドトール、上島珈琲店、カフェドクリエ、ベローチェなどなど。英会話前はチェーン店が中心です。
その習慣に従い、本日は上島珈琲店に向かいました。
店舗外でメニュー表を眺めていると、一人の男性から声を掛けられました。
「おにいちゃん、高尾までの運賃を調べてもらえないかい?」
髪は乱れ、羽織っている黒のベンチコートは汚れが目立っていました。
私は、ケータイをちょうど取り出しているところだったので、むげにもできず、交通費を調べてあげることにしました。
調べている間、その男は、少し高めに作られたテラスデッキ部分に横たわり、
「昨夜、酔っ払いにゲロを吐きかけられたんだよ」
「警察と3時間も言い合いになったんだよ」
「あー眠い」
「おにいさん、今日は寒いね」
と、次々に話しかけてきます。
返答を求めるような言い方だったので、その度に、災難でしたね、とか、寒かったですね、と返事をしていました。
そのため、交通費をなかなか検索することができませんでした。
はやく交通費を伝えて、その場から去りたいという気持ちが強くなっていました。
その気持ちを煽るように、男は次に「起きたら、財布もなにもかもとられていたんだよ」とぼやきました。
「・・・最安で639円になります」と私は、伝えます。
「37万、入っていたんだ。おにいさん、身分証明とか連絡先、伝えるから、お金貸してくれないか?」
男は、さっきまでの世間話のテンションとは明らかに違う声色で、話しています。
「交番にいけば、お金貸してくれることがありますよ」
「警察には、3時間も話したけれどもだめだった。あぁ、もう疲れた」
デッキに倒れて、私の顔を見上げます。本当に疲れている様子でした。
ただ、いつから疲れているのかわかりません。ずっと昔から疲れているように見えます。
一瞬かもしれませんが、私は、ずいぶん考えたような気がします。
渡すべきか、渡さないべきか。
教会では、隣人を愛せ、と言っています。
彼は隣人か?
「すみません、持ち合わせがあまりなくて」
「じゃあ220円でいいんだ。バスに乗れれば」
「情報なら渡せますが、お金は渡せません。すみません」
これが、私が選んだ答えでした。
おそらく彼は嘘をついています。
しかし、困っていることは確かです。
なぜ多くの人がいる中で、私を選んだのだろう?
快適な店舗の中から、男の姿を遠目で見て、本当にその選択でよかったのか、思い返します。
だまされるのは嫌ですし、頼んできた誰かに全部そのようにできるわけではないことも知っています。
しかし、本当の正解だったのか、と言われると、違うような気がします。
私を選んできた時点で、それはすでに私の運命となっていて、私はだまされなければならなかったのではないか、そう思うのです。